4カ月で高校中退 1人暮らし開始も「洗濯機」買えず 「自立」目指す少女に立ちはだかった“壁”

高校を中退した未成年の人が、親から自立するには、さまざまな試練に向き合わなければなりません。15歳で高校を中退した人の著書を基に、コラムニストが解説します。

未成年の人が親から自立するには、さまざまな試練を乗り越える必要がある

【画像】高校中退後、さまざまな経験を通じて成長する少女 「15歳の叫び あんな大人になりたくない」の書影

 毎年、さまざまな理由で高校を中退する人がいます。文部科学省の調査によると、2022度の全国の高校中退者数は4万3401人で、中退率は1.4%です。中退の理由として、「進路変更」(43.9%)が最も多く、「学校生活・学業不適応」(32.8%)、「学業不振」(6.0%)と続いています。

 高校を中退した未成年の人が、親からの自立を目指す場合、さまざまな試練に向き合わなければなりません。今回は、「15歳の叫び あんな大人になりたくない」(松谷咲著/みらいパブリッシング)を紹介します。

体調不良が原因で退学

 著者の松谷さんは、15歳のときに高校に入学しましたが、登校前に体の震えや頭痛、吐き気などの症状が出るようになり、わずか4カ月で中退したということです。以前から学校の教員に対して、ある思いを抱えていたといいます。

「生徒を見ていないのか、見て見ぬふりをしているのかは分かりませんが、本当に生徒が助けを求めている時に、手を差し伸べてくれる先生が私たちには必要です。クラスに大勢の生徒がいたとしても、一人一人と向き合い、一人一人の人生を考えて教育してくれる先生がいたなら、自殺を考えたり、不登校になったり、学校を辞める生徒も少なくなるのではないかと思います」(松谷さん)

 子どもからすると、大人、特に教員から「褒められる」「認められる」ことが、一生忘れられない経験になると、松谷さんはいいます。ささいなことを褒めてくれるだけで、自己肯定感が上がり、自分に自信がつくというのです。

「『レッテル効果』というものがあります。レッテルを貼られた人は、貼られたレッテル通りの行動をするようになるというものです。ネガティブなレッテルを貼れば、ネガティブになり、ポジティブな良いレッテルを貼れば、良いレッテル通りの人間になる。先生が生徒に対して『お前は頭が悪いからな』『お前は落ちこぼれだからな』と心の中で思っていれば、言葉に出さなくても態度にあらわれてしまいます」(同)

洗濯機だけは手に入らず

 松谷さんは高校中退後、初めはスッキリせず、何かやらなくてはという焦りがあったということです。その後、居酒屋のアルバイトを巡って、母親と口論になり、親元を離れて1人暮らしを始めることを決意したといいます。未成年のため、親に頼らずに賃貸物件の契約をするのは困難でしたが、21歳の兄に保証人を頼み、何とか6畳一間の物件を借りることができたということです。

 ただ、1人暮らしは大変だったといいます。松谷さんは、当時の状況を次のように説明します。

「親に内緒でカラーコンタクトや化粧品を後払いで購入して、親のところに弁護士から督促状が届いたこともありました。そんな時、父は母に『絶対に払ってはいけない。咲がかわいいのであれば、払ってはいけない』と言っていました。当たり前ですが、1人暮らしを始めることに決めてから、お金を節約するようになりました。1人暮らしをするとなると、すべてのモノを自分でそろえる必要があるからです」(松谷さん)

「アルバイトに行く時も、お金がかからないように、片道1時間かけて、自転車で通うことにしました。冬場は夜になるとすごく寒くなるので、家に着く頃には手と足の感覚がなくなります。この1人暮らしを始めるにあたって、一番の悩みは洗濯機でした」(同)

 松谷さんは、洗濯機以外の生活家電については、友達から譲ってもらうなどして手に入れることができたといいます。ところが、洗濯機だけが手に入りません。洗濯機が高額だった点に驚いたということです。

 なお、クレジットカードは、18歳にならないと作ることができません。クレジットカードがなければ、ネット通販の利用時に不便だと思いますし、店舗で高額な商品を購入する際は、まとまった現金が必要になります。

 松谷さんはお金を稼ぐ苦労のほか、「何も考えずにお金を使っていたらすぐになくなること」「今まで、いかに親に頼っていたか」などが分かるようになったといいます。この年齢で自立するためには、さまざまな障害があることを理解したのでしょう。

 書店には「生き方」に関する本がたくさん陳列されています。しかし、自分の社会的な成功を自慢するような内容の本も多く、リアリティーに欠けています。松谷さんのようなティーン世代の人たちが、社会についてどのように感じ、どういった形で自分の道を切り開いていこうとしているのか、それらを大人が理解することは簡単ではありません。悩みを抱えていない子どもは、いないといってよいでしょう。

 本書は、子育てをしている人や学校の教員の人に特に読んでもらいたいと思います。また、今、壁にぶち当たっている人にもおススメしたい一冊です。

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