昭和天皇が行った「女官=天皇の側室」改革とは? 背景に「正妻」の子ではない悲しみ

昭和天皇の行った女官の改革とは?

――定年問題ですか。先日、雅子さまに長年お仕えなさった岡山いちさんが勇退なさったのが77歳という高齢だったのを見て、少し驚きました。40代で女官になられたようなのですが……。

堀江 岸田さんは、女官に明確な定年制を導入するべきだとか、若い女性たちが、天皇のお手つきでない場合でさえ、生涯を皇居内に寝泊まりし、世間から隔離されて奉仕しつづけるという風習を改め、自宅からの通勤制にすべきだという提案を論文内でしています。

 面白いことに、それから数十年後にあたる敗戦後、GHQから当時6,000人以上もいた宮内庁の職員数の削減をもちかけられた昭和天皇と側近は、昭和20年から翌年にかけ、職員数の3分の2をカット。結果的に2,000人程度になるまで、人員削減に成功しました。

 しかし、昭和天皇の母宮で、大正天皇の皇后だった節子皇太后(当時)が女官の人員削減には大反対で、女官の人数自体は保たれたものの、戦後に新規採用される上級女官は未亡人や、子育てが一段落した中年以降の女性が「通勤」するという形に限定されるようになったのです。

 まぁ、昭和天皇が、明治中期に盛んに自由主義の評論家として活動していた岸田俊子さんの論文を目にした、もしくはそれに影響されたという具体的な証拠はないのですが、岸田さんによる女官通勤制度の要望と、昭和天皇の改革内容が被っているのは興味深いのですよね。

――昭和天皇が中年以降の女性だけを、天皇皇后両陛下のお側に仕える女官にすると限定した背景にあったものは?

堀江 それ以前の女官が若くして、しかも独身のまま宮中に入り、その後も人生の大部分を宮中で過ごしたというのは、天皇の側室候補になるかもしれないという可能性が考慮されていたのです。

 しかも出身階級は公家中心で男爵家、子爵家などの姫君が多かったというのは、仮に大正天皇の生母である柳原愛子(やなぎわら・なるこ)典侍(てんじ、高級女官の称号のひとつ)のように天皇の側室となり、天皇との間に男子を授かって、その皇子が次の天皇になったような場合、その女官の出身家は「準皇族」の扱いを受けることになったから。そうした待遇の変化にも、品格をもって耐えうる人々であろうということで、身分が限定されていたのだと考えられます。

 昭和天皇は、そうした女官任命の原則のほとんどを戦後に排除し、名実ともに皇室でも民間同様に、一夫多妻制とその温床になる体制自体を廃止すると宣言なさったのでした。この背景にあるのは、昭和天皇にとってはご両親にあたる大正天皇と節子皇后がそれぞれ、自分が「正妻」の子どもではないことに気づいてしまい、冷遇される実母を見て、ショックや悲しみを覚えた経験があったからだとされています。

 しかしこの時、一夫多妻制を廃しつつ、天皇家の男系相続という伝統だけは維持するという選択をなさったので、皇太子妃、もしくは皇后となる女性のプレッシャーは凄まじいものになった……という現代につながる問題が生まれてくることになりました。

「女官」という呼称をなくした秋篠宮家

――戦後日本の女官制度の改革は、想像以上に深い問題を含んでいたのですね。

堀江 とくに近代以降、ヨーロッパの王室ではどんな形でも一夫多妻制は否定されていますが、後継者は「男子に限る」というわけでもないので、「男子に限る」という日本の皇室よりはお妃さまの負担は大きくないのでしょう。一方、日本では皇族の方々が養子を取ることも禁止されてしまっています。

 ただ、令和時代の皇嗣家――つまり秋篠宮家が「なぜ職員の女性は女官長にはなれても、侍従長になれないのか?」という観点から、「女官」という呼称をなくし、男女ともに「宮務官」にしたという注目すべき改革を行っているため、さほど遠くはない未来に、天皇家の男系相続の原則に何らかの変化があるのではないか……と私は見ています。

 それは「女帝」誕生というような劇的変化ではないかもしれませんが、現在、皇族の方々は養子をとることが法的には認められていないのですけれど、旧皇族の家に生まれた男性を養子としてお迎えするなど、段階的な養子制度の復活はありうる、容認されうることになったりするのではないでしょうか。もちろん、これは私論ですが、今後の変化が注目されるのです。

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サイゾーウーマン
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