電車の痴漢被害対策に取り組む団体に突然送り付けられたのは、「2年間使った」という使用済みの男性向け性玩具だった。
「自分が痴漢しないために性欲を解消した。あなたたちの活動を応援している」といった内容の手紙も同封されていた。
言いようのない不快な出来事にショックを受けた団体の代表は、警察の捜査を求めたが、被害届は受理されなかった。
「はっきりとした性加害です。罪に問えないのは、法律がおかしい」
代表の松永弥生さんは「法的責任を追求できないやり場のない怒り」を感じている。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)
●手紙の中身がだんだんとおかしな内容に転じていく
今年7月、一般社団法人「痴漢抑止活動センター」(大阪市)に一通のレターパックが送られてきた。表書きの品名には「応援の手紙、プラスチック製玩具(贈答品)」と書いてある。
代表をつとめる松永さんが開封したところ、男性向けの性的な玩具があった。
あっけに取られる松永さんだったが、同封されていた手紙に目を通してみると、送り主の男性は団体の活動を2年前に知ったと書かれていた。
「痴漢がその後の女性の人生に大きく影響を与える重大な事象であるという事を知りました」
「自身が男性である以上、もしかしたら痴漢を犯してしまう可能性があるのではないか(〜中略〜)恐怖を感じました」
書き出しにあった男性の不安については、松永さんも理解できるところだったので、そのまま読み進めていくと、困惑するような記載があった。
・電車や駅構内にいる女性の体や下着を見てしまう
・痴漢してしまうかもしれないので、あらかじめ性欲を解消するため、2年間ほぼ毎日、電車に乗る前にこの性玩具を利用した
手紙の内容をそのまま記載することは避けるが、送り主の性癖があらわにされ、性玩具の詳細な使用感の解説まで長々と書かれてある。
この手紙を送った意図は、痴漢にならないための努力をしている者がいることを団体にわかってほしいとの思いがあるからだという。その証拠として実際の性玩具を添えたとしている。
今後も毎日の性欲解消を続けていきたいとし、団体を応援する言葉で手紙は結ばれる。
松永さんによると、透明なビニール袋に包まれた性玩具は、外側の樹脂がボロボロになり、使い込んだ形跡がみられたという。
●大阪府警「府迷惑防止条例違反には該当しない」
松永さんたちの10年にも及ぶ活動の中で、電話やメールで嫌がらせを受けることはあったが、物を送りつけられたのは、今回が初めてだったという。
「手紙の内容に困惑したものの、こんな活動をしていれば、これくらいのことは起こるものだと、問題をスルーする気持ちでした。しかし、『そんな道具を送ってくるのは犯罪だから警察に通報すべきだ』と周囲から指摘されて、やっと自分が性加害を受けたことを自覚できました」
その日のうちに、警察相談専用ダイヤル「#9110」に電話して、事務所を訪れた警察官に被害を説明したところ、「事件として扱えない」と言われたという。
それでも、2日後に改めて警察署に出向いて被害届の受理を頼んだが、「大阪府迷惑防止条例違反には該当しない」と言われてしまった。
大阪府の条例は、妬みや恨み、悪意の感情または性的好奇心を満たす目的で「汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付」することなどについて、「特定の者に」「反復してしてはならない」と定めている。
府警は「レターパックの宛先が松永さんではなく、『痴漢抑止活動センターの職員のみなさま』だったから、条例違反の要件である『特定の者』には該当しない」とし、「何度も同じ嫌がらせを受けなければ事件にできない」と説明したという。
その後、大阪府警が送り状にあった携帯電話の番号に連絡したところ、電話口に女性が出て「まったくこの件に関与してないし、差出人に心当たりはない」と回答したそうだ。送り主の名前や住所も知らないものだったと話したという。
あとでわかったことだが、記載住所を調べてみると、そこにはフェミニズム系の出版社が所在していた。送り主がわざわざその住所を書き込んだことにも何らかの悪意が読み取れそうだ。
配信: 弁護士ドットコム