肖像権侵害で慰謝料を請求できる?相場はいくら?判例も紹介

肖像権侵害で慰謝料を請求できる?相場はいくら?判例も紹介

3、肖像権侵害で認められる慰謝料の相場

肖像権侵害で慰謝料請求が認められる場合、その金額が気になることでしょう。

結論を言いますと、一般人が肖像権を侵害されたのみの場合は、数万円~数十万円程度が相場となっています。

誹謗中傷などによる名誉毀損が加わっている場合は慰謝料が増額されますが、それでも50万円を超えるケースは少ないといえます。

ただし、ヌードの動画像を公開された場合や、報道機関によって公共の媒体で動画像を公開された場合など、特殊な事情がある場合は100万円を超える高額の慰謝料が認められることがあります。

4、肖像権侵害の慰謝料請求についての判例

ここでは、肖像権侵害で慰謝料請求が行われた事案に関する判例をいくつかご紹介します。

(1)慰謝料が認められた判例

まずは、慰謝料が認められた判例をみていきましょう。

①著名人が居室内のガウン姿の写真を週刊誌に掲載された事例:慰謝料30万円

新聞社の会長として社会的に知名度が高い被害者の自宅居室内におけるガウン姿の姿態をカメラマンが撮影し、週刊誌に掲載したという事案です。

被害者は以前からプロ野球の人気球団のオーナーとして著名であり、事件当時は球団のスカウトが起こした不祥事により、オーナーの去就に対して国民的な関心が集まっていました。

被告となった週刊誌の出版社側は、被害者は注目度の極めて高い公的存在であることを理由としてプライバシー権侵害には当たらないと主張していましたが、裁判所はプライバシー権侵害を認定して200万円の慰謝料を認めました。

裁判所は、被害者が公的存在であるとしても、自宅居室内における容貌・姿態は純粋に私的領域にかかる事項であり公衆の正当な関心事とはいえず、違法性は阻却されないと判示しています(東京地裁平成17年10月27日判決)。

なお、この裁判は控訴され、東京高等裁判所で慰謝料額が30万円に減額されました。上告が棄却されたため、この控訴審判決が確定しています。

②ファッションを紹介する目的でWebサイトに無断で掲載された事例:慰謝料30万円

銀座を歩いていた女性が無断で写真を撮影され、その写真を被告が流行のファッションを紹介する目的でWebサイトに掲載したという事案です。

被害者となった女性は、イタリアの有名ブランドがパリコレクションに出展した服を着ており、その胸には「SEX」という大きな赤い文字が施されていました。

写真は女性の全身像に焦点を当てたものでしたが、容貌がはっきり分かる形で大写しにされていました。

裁判所は、一般人であれば、このような服を着ている写真を撮影されることを知れば心理的な負担を覚えるものであるとして、このような写真を撮影されたり、Webサイトに掲載されることを望まないものであると認定しました。

したがって、無断でこの女性の容貌・姿態を撮影し、これをWebサイトに掲載した被告の行為は肖像権を侵害するものであるとして、30万円の慰謝料を認めました(東京地裁平成17年9月27日判決)。

③顔写真を他人のSNSアカウントのプロフィール画像に使用された事例:慰謝料60万円

他人が以前にSNSのプロフィール画像として設定していた顔写真を無断で転用し、その人になりすまして他の利用者を侮辱、罵倒する内容の投稿をしていたという事例です。

裁判所は、被告が原告の顔写真を使用する目的に正当性は認められず、社会生活上受忍すべき限度を超えて原告の肖像権を違法に侵害したものと認定し、慰謝料60万円を認めました。

なお、この事例では肖像権侵害と併せて名誉権侵害も認められたため慰謝料が増額されています。仮に肖像権侵害のみであったとすれば、慰謝料が認められたとしても金額は10万~30万円程度であった可能性があります。

(2)慰謝料が認められなかった判例

慰謝料が認められなかった判例として、防犯カメラに関する事例をご紹介します。

コンビニでは一般的に店内に防犯カメラが設置されており、客の動静を撮影し、その映像を一定期間保存しています。この行為が客の肖像権を侵害するものとして慰謝料を請求された事例があります。

裁判所は、

コンビニにおけるカメラの設置・撮影・映像の保存には防犯のためという正当な目的が認められること
隠し撮りではなく、カメラを設置している旨の掲示があること
特定の客を追跡するような撮影はしていないこと
保存された映像は1週間程度で消去されていたことなどから、

などから、社会生活上受忍すべき限度を超えて客の肖像権を侵害するものではないとして、慰謝料請求を認めませんでした。

ただし、防犯カメラによる撮影が全てのケースで肖像権侵害に当たらないと判断されるわけではありません。

あくまでも、個別の事情に応じて、受忍限度を超えているかどうかが判断されることに注意が必要です。

近年では街中の至るところに防犯カメラが設置されていますが、通行人の肖像権との関係も問題視されています。

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