国立がん研究センターらの研究グループは、健康な人の腸内細菌を胃がんなどの患者に移植して腸内環境を改善させることで、がんの治療薬の効果を高められるかの臨床試験を始めました。こうした取り組みは国内初となります。この内容について岡本医師に伺いました。
監修医師:
岡本 彩那(淀川キリスト教病院)
兵庫医科大学医学部医学科卒業後、沖縄県浦添総合病院にて2年間研修 / 兵庫医科大学救命センターで3年半三次救命に従事、近大病院消化器内科にて勤務 /その後、現在は淀川キリスト教病院消化器内科に勤務 / 専門は消化器内科胆膵分野
研究グループが発表した内容とは?
国立がん研究センターらの研究グループが発表した内容を教えてください。
岡本先生
国立がん研究センターと順天堂大学、そしてバイオスタートアップのメタジェンセラピューティクス社が共同で臨床試験を開始しました。臨床試験は「胃がん・食道がん患者に対する免疫チェックポイント阻害薬と腸内細菌叢移植併用療法」に関するものです。
腸の中には、いわゆる善玉菌や悪玉菌などの様々な菌がいます。そして、健康な人の腸と病気の人の腸ではそこにいる菌の種類、比率が異なるということがわかっています。健康な人の腸にいる菌をその種類、比率そのままの塊(腸内細菌叢)で内視鏡を用いて疾患を持つ患者の腸内に注入することで、バランスのとれた腸内細菌叢を構築する医療技術を「腸内細菌叢移植(糞便移植)」と言います。現在、悪性黒色腫患者で免疫チェックポイント阻害剤が効かない人に対して、この技術を使うことで治療の奏効率を改善させることが示唆されています。そのため、そのほかの様々な悪性腫瘍に対する効果についても検討されはじめています。
今回の臨床試験は、国内で初めて消化器がん患者を対象にした腸内細菌叢移植の臨床試験となります。食道がんや胃がんで免疫チェックポイント阻害薬による治療効果が得られない患者にとって、新たな治療選択肢にできるかを検討していくものです。
今回の臨床試験をについて、研究グループは「腸内細菌叢移植併用療法は、がん治療において注目が高まっている新たな方法です。このたび諸外国に遅れを取ることなく、日本初となる消化器がん患者を対象とした腸内細菌移植療法の臨床試験を開始できたこと、大変嬉しく思います。本試験を通じて、免疫チェックポイント阻害薬の効果を高めることで、より有効な治療選択肢を提供できるよう、尽力して参ります」とコメントしています。
研究の背景とは?
今回の臨床試験は、消化器がん患者を対象とした国内初の腸内細菌叢移植の臨床試験となりますが、試験に至った背景とはどのようなものがあるのでしょうか?
岡本先生
日本において、食道がんは年間約2.5万人、胃がんについては日本で3番目に多いと報告されています。また、5年生存率については胃がんで65%程度、食道がんで40~45%程度と言われています。
医学の進歩により、使用できる治療手段が広がっているものの、薬などの治療効果が得られない場合もあり、新たな治療の開発が必要となっています。一方で、腸内細菌叢の乱れは潰瘍性大腸炎や糖尿病、アレルギー疾患などに関連すると言われています。現在、腸内細菌叢移植の効果が証明されているのは一部の腸炎です。しかし、ほかの疾患、潰瘍性大腸炎などの難病などにおいても研究がされており、効果があるのではないかと報告され始めています。がん領域では先述した悪性黒色腫の患者でも治療の奏功性が改善されるのではと示唆されている研究も出てきています。
そのため、胃がんや食道がんなどにおいても、腸内細菌叢移植を併用することによって免疫チェックポイント阻害薬の奏効割合を安全に向上できないのかと考えられ、今回の研究が実施されることになりました。
配信: Medical DOC