野菜が安いことはいいことなの?農業ベンチャー社長が考える日本の農家の未来

野菜が安いことはいいことなの?農業ベンチャー社長が考える日本の農家の未来

日常と非日常の境目が考えるべきポイント


小竹:農業体験や野菜作りは楽しいしおいしいし喜んでもらえるのにやらないのはなぜだろうと思うのですが、どうですか?

西辻:こんなにいいことで素晴らしい気づきが得られるのにやらないのは、ほかのものに比べて優先順位がまだまだ低いからだと思います。だからこそ、マイファームが野菜作りは素晴らしいと押し出していくことで、たくさんの人に時間を取ってもらうというのが大事だと思っています。

小竹:料理も野菜作りも同じですが、たまになら楽しいけど、日々の暮らしの中でやり続けるのは大変だと感じてしまいます。だからこそ、楽しさがすごく大事ですよね。

西辻:僕の妻は料理を毎日していて、僕も2~3日に1回くらいするのですが、僕はすごく料理が楽しい。でも、妻はメニューが浮かばないと言う。これは日常と非日常の違いがあって、僕は採算度外視で野菜を買っちゃうんです。妻は採算度外視で買ったりしないので種類も限られているけど、こっちはものすごくワールドが広がっているので、日常と非日常の境目に難しいポイントがあると思います。

小竹:野菜作りも同じで、週末農園から農業にいくには壁がある気がします。そういったことは学校でどのように指導されているのですか?

西辻:わかりやすい非日常と日常の断裂としては、家庭菜園や週末農業は非日常で、農家は仕事なので日常です。この真ん中のラインはどうなのかといつも思うんです。 真ん中のラインは僕たちの場合では、もう少し面積を広げましょうという感じなんです。半農半Xと言われたりもします。

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小竹:うんうん。

西辻:面積を広げていくと、あるポイントから食べきれなくなってくる。そのときに初めて売る喜びを感じてみましょうとなる。それで直売所に持って行って売れると喜びを感じる。しかも儲かってくるとそれがどんどん続いていく。そういう風にグラデーションで考えていて、非日常から日常に一足飛びでいくことはないと思うので、真ん中のラインをずっと事業として展開している感じです。

小竹:息を長く育てていくという感じですかね。

西辻:そうです。非日常でいいなと感じて勉強をして、いきなり大量生産の農家をやるのはしんどいです。好きだったものを嫌いになってしまう。そうならないようにやっていくのが僕たちの授業の味噌ですが、長い期間がかかります。

小竹:農業始めようと思うと、1人前になるにはどれくらいかかるのですか?

西辻:3年くらいです。農業は1年に1回しか経験できない。トマトを12回作れと言われても作れない。なので、1年目はまず1年の流れを感じてもらいます。2年目はその経験を活かしてちょっとジャンプアップ。3年目は食べられる量よりちょっとプラスして喜びを感じてみましょうみたいな感じです。

農業は「愛情を伝える最高のツール」


小竹:西辻さんの学校に行く理由として、ほかにはどういったきっかけで農業を志している人が多いのですか?

西辻:自分が体を壊したとか子どもの野菜嫌いとか、何かしらの食に関する課題を抱えた人が来ることが多いです。それは好きだからやりたいという人とは別の路線です。こういう人たちの量が年々増えているので、少しでも要望に応えるために、今うちの会社では食物アレルギーの方々に対して塾をやってみたりなど、ネガティブをポジティブに変えるという作業が増えています。

小竹:そういうことは家族農業にもぴったりですよね。

西辻:ぴったりです。ベジタリアンやヴィーガンの方も増えているので、ヴィーガンなので自分でやってみたいとか、植物性の肥料だけ使うとこれだけ難しいとか、いろいろとわかってくるのですが、これはすごくいいことだと思っています。

小竹:農家になりたいという思いで大学に入り仕事をして今に至る中で、当時描いていた農家というものと比べて、今の農家に対する思いは?

西辻:ちょうど転換期にあって、今まではたくさん作れば誰かが買ってくれていましたが、今はたくさん作っても食べてくれる人がいない時代になってきているので、作ればいいという考え方はもう捨てないといけない。誰が食べてくれるのか、食べた人がどうなってくれるのかと思わないと農家もやっていけない時代です。

小竹:食品ロスの問題もありますしね。

西辻:野菜の価格が今より3倍高ければ捨てないと思うんです。安いから捨てちゃう。ダイヤモンドを捨てる人はいませんからね。価値が低く感じられているから捨てられる。需要と供給のバランスでいくと、少ないと高くなりますが、それを超えた形で、付加価値があるから高い、付加価値があるから少なく見えるという形を日本の農家として作っていかないと、勝負できない時代になっていると感じます。

小竹:ニュースでも野菜が高いとか安いとか、まるで悪者みたいですよね。

西辻:卵も物価の優等生と言われて、1個10円くらいで戦後から続いていて、最近はそれは難しくなってきて何十円にも上がってきていますが、「優等生」という言い方でいいのかなって思いますね。

小竹:西辻さんにとって農業とは?

西辻:大好きなことです。もう少し拡大解釈をしていくと、愛情を伝える最高のツールだと思っています。自分の作ったものを誰かに食べてもらう。手作りチョコレートケーキを作るのと一緒ですが、手作りチョコレートケーキの場合、カカオまで作っていますかという話です。農業は、自分で作った大根でこれだけのこれがあってこうだと愛情を伝える時間が長くなる。より伝えるにはぴったりだと思います。

小竹:西辻さんが一番好きな野菜は?

西辻:オクラですね。僕はオクラを作るのが一番得意なのですが、農家さんは自分の栽培の技術や特性上、相性がいい野菜って絶対にあるんです。僕の作るオクラは本当においしいです(笑)。オクラは実だけではなくて花もおいしいし、あんなに上を向いて育つのかという発見もあるので楽しいです。

小竹:最後に、今後チャレンジしてみたいことを教えてください。

西辻:個人としては福井の農家になりたいと思っています。60歳くらいにはやりたいと思っています。福井で一番楽しく農業をやっている人になりたい。もしかして世界で一番楽しくやっているかもしれないですけど、場所は福井と決めています。

小竹:畑のイメージはあるのですか?

西辻:もちろんオクラを作っています(笑)。多品目を栽培して、いろいろな人たちが来るような畑にしたいです。

(TEXT:山田周平)

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【ゲスト】

第11回・第12回(8月2日・16日配信) 西辻 一真さん


株式会社マイファーム代表取締役/学校法人札幌静修学園理事長/幼少期に体験した母親との家庭菜園の楽しさから農家を志し、2002年に京都大学農学部に入学。卒業後、1年間のサラリーマン生活を経て、2007年に農業ベンチャー「株式会社マイファーム」を設立。アグリイノベーション大学校という農業専門学校や体験農園、薬草やサツマイモの栽培などの事業を全国で展開。著書に『マイファーム 荒地からの挑戦 農と人をつなぐビジネスで社会を変える』『農業再生に挑むコミュニティビジネス 豊かな地域資源を生かすために』がある。

X: @kazumyfarm

【パーソナリティ】 

クックパッド株式会社 小竹 貴子


クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。

趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。

X: @takakodeli

Instagram: @takakodeli

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