歴史的な円安や空前のインバウンドブームが声高に叫ばれる中で、日本人客よりも高い料金を外国人客から取る「二重価格」を設定する店も現れはじめているようだ。
海外の観光地ではすでに「二重価格」を設定しているところもある。多少の違いであれば気にならないかもしれないが、説明不足などで「不公平感」を覚える人もいる。
はたして、日本人よりも外国人客の料金を高くする「二重価格」は法的に問題ないのだろうか。観光ビジネスに詳しい浅井耀介弁護士に聞いた。
●外国人であることだけを理由にすれば違法になるおそれ
原則として「契約の自由」がありますので、誰とどのような内容の契約を結ぶかは自由です。各人との契約内容(=価格設定)が異なることで、ただちに法的問題が生じることはありません。
一方で、外国人であることだけを理由に日本人より高い価格を設定した場合は、憲法上の平等原則の考え方に反するとして、そのような価格設定が無効ないし違法になる可能性があります。
その結果、日本人価格との差額の返金を求められたり、精神的苦痛に伴う慰謝料を請求されたりした場合、店側がその求めに応じなければならないという事態にもなりかねません。
実際の裁判例でも、マナーの悪さを理由に外国人を一律に入店拒否したことについて、違法と判断されたケース(札幌地裁平成14年11月11日)があります。
●「合理的な理由」があれば区別は許される
ただし、裁判例においても、日本人と外国人を区別することについて一律に禁止されているわけではありません。すなわち、区別することについて「合理的な理由」があれば、その区別は許容されるとしています。
どのような区別であれば合理的な理由があるとされるのかについては個別具体的な事情によりますが、大切なのは「不公平感」をなくす、ということです。
たとえば飲食店であれば「外国語のメニュー表を導入した」「外国語対応が可能な人材を確保した」など、外国人を積極的に受け入れるために実際に費用を支出した事情があれば、その費用を回収するために費用支出の原因となっている外国人から特別価格を徴収することに一定の合理性が認められやすいでしょう。
また、外国人であることを理由に不利益に取り扱うのではなく、日頃の愛顧に感謝して常連さんであることを理由に優遇するという逆の発想をもつことも「不公平感」の解消につながりやすいです。
たとえば、その地域に居住していることがわかる身分証を提示したら「◯割引き」とか、前回来店時のレシートを提示したら「◯割引き」といった方法によって、観光客とそうでない人との間で価格設定に差異を設けるということも一案です。
【取材協力弁護士】
浅井 耀介(あさい・ようすけ)弁護士
アンダーソン・毛利・友常法律事務所退所後、レイ法律事務所に入所。観光ビジネスや旅行業をはじめとして、芸能案件や学校問題、刑事事件を主に扱う。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/
配信: 弁護士ドットコム