鼠径ヘルニア(脱腸)は、腹部の内臓が鼠径部(太ももの付け根あたり)から飛び出す病気であり、痛みや不快感を伴うことが多くあります。患者の9割は男性ですが、女性にも起こりうるのだそうです。鼠径ヘルニアは、どのように診断され、どのような治療をするのでしょうか? そこで鼠径ヘルニアの病態や治療について、「東京たかはしクリニック練馬院」の高橋昂大先生に解説してもらいました。
監修医師:
高橋 昂大(東京たかはしクリニック練馬院)
2010年日本大学医学部卒業。日本赤十字社医療センター外科、東京大学医学部附属病院心臓血管外科、新東京病院心臓血管外科、メディカルトピア草加病院などに勤務。2020年海外留学(Khoo Teck Paut Hospital)。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医、日本消化器外科学会指導医、下肢静脈瘤に対する血管内レーザー焼灼術の実施基準による指導医、日本内視鏡外科学会内視鏡外科技術認定医、The European Association for Endoscopic Surgery、The International Federation for the Surgery of OBESITY AND METABOLIC DISORDERS (IFSO)。
鼠径ヘルニア(脱腸)って何? 医師が解説
編集部
鼠径ヘルニアについて教えてください。
高橋先生
鼠径ヘルニアとは、足の付け根の付近で筋膜が薄いところから、内臓が腹腔の外に飛び出た状態で、いわゆる脱腸とも呼ばれるものです。50代以上に多く、患者さんの約9割が男性とされていますが、女性にも起こりうる疾患です。
編集部
どんな症状が出るのですか?
高橋先生
初期は、太ももの内側や鼠径部に痛みや重苦しい感じがあり、その後に膨らみを自覚するようになります。飛び出た内臓が大腸の場合、便秘が起こり、小腸であれば腸閉塞、膀胱の場合は排尿障害を起こします。初期は、飛び出てしまっても指で膨らみを押すことで引っ込みますが、放置しておくと嵌頓(かんとん)状態となります。そうなると腸が狭くなり、首を締められたような状態になって血流が悪くなり、腹膜炎となるリスクがあります。そうなった場合は緊急手術の適応となります。
編集部
どうして内臓が外に飛び出てしまうのですか?
高橋先生
男性には鼠径管があります。これは、胎児の時期にはお腹の中にあった睾丸を、体の外側に出すための管です。加齢などにより筋肉自体が痩せてしまったり、腹圧がかかったりするとこの鼠径管が開きやすくなり、腸が入り込んでしまうことがあるのです。女性の場合は、加齢や出産などにより筋肉や筋膜が緩んだり、腹圧がかかる状態が続いたりした際に発症します。
鼠径ヘルニアの診断、治療についても知りたい!
編集部
鼠径ヘルニアはどのように診断されるのですか?
高橋先生
鼠径ヘルニアは、鼠径部にこぶのような膨らみやしこりを確認できるケースがほとんどなので、視診と触診で診断を行います。さらには、飛び出している箇所の状態を下腹部CT検査やエコー検査を用いて確認します。
編集部
治療はどのように行われるのですか?
高橋先生
鼠径ヘルニアの治療には、腹腔鏡下修復術と昔からある鼠径部を3~4cm程度切る鼠径部切開法があります。早期に社会復帰したい方は、腹腔鏡下修復術をお勧めしています。
編集部
もう少し詳しく教えてください。
高橋先生
一般的な鼠径ヘルニアの腹腔鏡下修復術は、おへそに1cmほどの穴を計3ヶ所あけ、カメラで確認しながら手術を行います。医療機関によっては0.5cm程度の穴を3ヶ所あけるだけで手術ができる場合もありますので、早急な術後の回復を希望される方は探してみてください。いずれにせよ、昔ながらの鼠径部切開法は、お腹を3〜4cmくらい切り、開いて確認しながら行うので、それと比べると圧倒的に負担が少ない術式と言えます。
配信: Medical DOC