脳腫瘍の前兆となる初期症状
脳腫瘍は初期段階の小さな病変であるうちは、何かの症状が現れることはほとんどありません。ある程度の大きさまで成長して初めてさまざまな症状がみられます。
腫瘍が大きくなると周囲の正常な脳組織を圧迫して脳浮腫(むくみ)を引き起こしている場合が多く、多彩な症状が現れます。
主な脳腫瘍の症状は頭蓋内圧亢進症状と脳局所症状、けいれん発作です。
これらの症状が進行するスピードは発生した腫瘍の悪性度と関連することが多く、特に悪性腫瘍の場合には症状が現れるとその後急激に悪化することもあります。
気になる症状があったら、まずは早めに脳神経外科や脳神経内科を受診し、頭部MRI検査を受けることが勧められます。
頭痛・嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状
脳は頭蓋骨や髄膜・硬膜によって密閉された状態が保たれているために、腫瘍自体の体積が増大することで頭蓋内圧が強まります。
頭蓋内圧が徐々に高まっていくと頭痛や嘔吐、眼底が腫れること(うっ血乳頭)による視力低下などが現れます。
頭痛は起床時に起こることが多く、急な嘔吐などが多く見られることが特徴です。視力障害は初期段階ではほとんど自覚はありませんが、一時的な視力障害を繰り返すことで見つかることがあります。頭蓋内圧が高まった状態が続くと失明することもあります。
麻痺症状などの脳局所症状
脳局所症状とは、腫瘍の発生した場所や、腫瘍によって圧迫された場所の脳組織がダメージを受けることで発症する症状です。手足の筋力低下(麻痺)、しびれなどの感覚障害、喋りづらい(言語障害)、記憶力・認知機能の低下、めまいやふらつきなど、さまざまな症状が現れる可能性があります。
ホルモン分泌異常や視力・視野障害
これも脳局所症状に含まれますが、脳内にあるホルモン臓器に脳腫瘍が発生するとホルモン分泌異常や視力・視野障害が起こります。
例えば、脳下垂体部の腫瘍では、腫瘍が大きくなることで視神経を圧迫して視力の低下や視野が狭くなる症状が起こったり、ホルモン分泌異常による全身へのさまざまな症状が見られたりすることがあります。
視力や視野の症状は放置すると失明する可能性があるため、早めに治療をしなければいけません。ホルモン分泌異常は、成長ホルモン産生腫瘍、プロラクチン産生腫瘍、副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍などによって引き起こされます。成長ホルモン産生腫瘍では、額、顎、唇、舌、手足などが大きくなる先端巨大症を発症し、高血圧や高血糖を引き起こすことから放置すると寿命が短くなると言われています。プロラクチン産生腫瘍では、月経異常、乳汁分泌不全、性機能低下などの症状が現れます。副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍は、顔が丸くなる満月様顔貌、胸や腹部が太くなる中心性肥満などを特徴とするクッシング病を発症します。
また、頻度は少ないのですが、松果体部の腫瘍では、上を見ることができない症状(上方注視麻痺)やダブって見える症状(複視)が見られます。
てんかん・けいれん発作
脳内に腫瘍が発生すると、けいれん発作を起こすことがあります。特に、脳浮腫が強く頭蓋内圧がとても高まり、意識を失ったりけいれんが出現したりする場合は治療を急ぐ必要があります。
けいれんは、手足のガクガクブルブルといった震える症状だけをさすものではありません。急にことばが出なくなること、急に笑ったり舌を動かしたりするような顔の動き、意識を失うことなど、さまざまな症状も見られます。けいれん発作を繰り返すものをてんかんと言いますが、脳腫瘍が発生した部位に関係なく起こる可能性のある特徴的な症状といえます。
大人になってから初めてけいれん発作があれば、脳腫瘍を疑って頭部画像検査を行うことが勧められます。
脳腫瘍の主な原因
転移性脳腫瘍は、全身にできたがんが転移して発症し、最も多い原発がんは肺がんです。
原発性脳腫瘍の多くは、さまざまな研究がされておりますが発生する原因は明らかになっていません。なかには、原因遺伝子が特定されている遺伝性腫瘍という珍しい脳腫瘍や、放射線治療後に発症する脳腫瘍もあります。
遺伝的な要因
脳腫瘍の発生には遺伝子異常が関係しているといわれています。この遺伝子異常の多くは、腫瘍組織だけに生じた突然変異と考えられていることから家族内で遺伝することはありません。
しかし、一部の脳腫瘍では特徴的な遺伝子異常が確認されており、家族内での遺伝していくことが知られています。この遺伝性(家族性)腫瘍の代表疾患は、神経線維腫症(NF1、NF2 (merlin)、SMARCB1の変異)、フォンヒッペルリンドー病(VHL遺伝子の変異)、結節性硬化症(TSC1 (hamartin)、TSC2 (tuberin)の変異)です。
遺伝性脳腫瘍の多くは良性腫瘍ですが、悪性の性質を示すものもあります。また、基本的な治療は手術ですが、多発性に腫瘍が発生することや他臓器の腫瘍を合併することも多く、治療する機会が多くなってしまうこともあります。
過去の放射線治療歴
過去に何らかの病気に対して頭部への放射線治療を受けた後、10年以上経過してからその放射線照射部位の領域に腫瘍が発生することが多く報告されています。これは放射線誘発性脳腫瘍と呼ばれるものですが、放射線照射によって正常細胞の遺伝子がダメージを受けることで腫瘍が発生していると考えられています。
その他、生活習慣に関する原因候補
さまざまな疫学調査の結果から、いくつかの生活習慣が脳腫瘍の発生リスクをあげる候補として報告されています。
例えば、未治療の虫歯が3本以上ある、過度に炭酸飲料や砂糖を摂取する、生野菜を摂取しない、コーヒーを多量に摂取する(1日7杯以上)場合には、脳腫瘍の発生が多いという報告があります。
これらは脳腫瘍のリスク因子として確立されたものではありませんが、生活習慣の改善は脳腫瘍に限らず疾病予防につながるので見直すことは重要です。
配信: Medical DOC