母親のストレスは周囲のサポート量に影響される
初めての出産を終えてから始まる第一子の育児は、すべてが初めてのことだらけです。母親の体調もすぐには整いません。
母親は出産直後から、子の生命に関する身体の変化や異常を、看護師のごとく細やかに察知するようにできています。便や尿のこと、黄疸など皮膚の異常、活動や様子、授乳量や吐乳、体重増加の推移や頭の形など、常に気をはりめぐらせているのです。
そのうえ、初めて外界に出てきた赤ちゃんの不安や心身の欲求を読み取り、「大丈夫だよ」「のどが渇いたね」と声掛けや抱っこ、授乳、おむつ交換の連続です。当然ながら、母親の生活リズムは激変します。
赤ちゃんのペースにあわせて不規則な生活になることで、睡眠時間や自由時間、家事の時間、夫婦の時間は不足します。子育てはこれから長く続くため、「この先はどうなっていくのだろう?」と、不安で孤独な気持ちでいらっしゃるかもしれません。
そんな中、母親のストレスの大きさや内容は、周囲から受けられるサポートの量にずいぶんと影響を受けます。夫や実母・義母などからの心理的なサポート、物理的な育児の協力、育児の具体的な情報が。または、同じ境遇の仲間や先輩からの評価などです。
母親役割の理想と現実について考えてみる
「こんなママ(お母さん)でいたい」「こんな両親や家族でありたい」と心に描く理想像は誰にでも存在します。とはいえ、「こうありたい」願望がいつの間にか「こうあるべき」という信念に変わってしまい、理想と現実のギャップに心を痛めていませんか?
特に実母や義母など周囲から、「こうあるべき」のプレッシャーを現実的な形で受けている方のご苦労は大変なものです。また、母親の多くが専業主婦だった時代の女性役割と男性役割を、無意識に引き継いでいることもよくあります。
理想と現実のギャップに対する焦りはストレスに大きく影響し、母親役割の達成感や生活満足度を下げてしまいます。心理学では「理想自己と現実自己のズレの大きさが人々の悩みを生む」としていますが、このギャップには改善の余地があり、発達段階の途中にあるととらえることでよい成長につながることもあります。
つまり、理想と現実のギャップをどうとらえて付き合っていくかの「つきあい方」がカギともいえます。
理想の母親役割を思い描いたときに、最低限守りたいこととはなんでしょうか?
それは本当に必要でしょうか?
他にアイデアはないでしょうか?
母親でないとできないことでしょうか?
今じゃないとだめでしょうか?
代替案はないでしょうか?
多様な視点から、しなやかに考えてみることもできるかもしれませんね。
ライフスタイルはそれぞれ! 「私は私」で開き直る
平成9(1997)年以降、共働き世帯の割合が専業主婦世帯を上回りました(※1)。女性には職業役割や母親役割、妻役割、社会役割(地域や学校の活動)、子役割(介護、親戚付き合い)など、たくさんの役割があります。
「多重な役割があるほうが生活の満足度が上がる」という人もいれば、多重な役割ゆえに時間の余裕がなかったり、いずれかの役割がうまくいかなかったりすることで、母親役割としての育児にもストレスがかかることがあります。
周囲から得られるサポートはどれくらいでしょうか? 「ある程度は望む形で得られる」、「望む形ではないけれど妥協しながら得られる」、「残念ながらほぼ得られない」…人それぞれです。
【周囲のサポート資源】×【子どもの特徴】×【きょうだいの数】×【ママの特徴】×【理想や価値観】×【ライフスタイル】と、この回でお話ししただけでもこれだけ多くの変数が存在しています。このため、それぞれの夫婦や家庭にあわせた夫婦事情、子育て事情があるといえます。
ご近所の家庭やママがどんなにうまくいっているように見えても、外に見せている面はほんの一部です。「我が家は我が家」として、ママ自身が「こうありたい」価値観と我が家の事情をすりあわせて、今の現実的な状況に落ち着かせる。そんな心の整理や作業が必要です。
人間関係の不和は、当事者と周囲の心を消耗させます。親戚や家族との対立はなんとか避けつつも、どこか心の中では「私は私」「私たちは私たち」「我が家は我が家」と開き直ることも、大切な処世術です。
次回は引き続き、親役割達成感や生活満足度など心の健康度を上げていくポイントとなる「コンパッション」について取り上げます。
<出典>
※1 「労働力調査」総務省統計局