早ければ30代後半から始まる人も。老眼を考えるときに理解しておきたい『調整力』について眼科専門医野口先生にお伺いしました。

早ければ30代後半から始まる人も。老眼を考えるときに理解しておきたい『調整力』について眼科専門医野口先生にお伺いしました。

「なんだか最近、物が見えづらい?」「ピントが合うのに時間がかかる気がする」

老眼を疑わない訳じゃないけど、未だ年齢的には早い気がする・・・。

30代でも老眼はありえる?

今回は、ASUCAアイクリニック 仙台マークワン 主任執刀医の野口三太朗先生にお話を伺いました。

調節力とは

老眼を考えるうえで一番理解しておかなければならないことは、『調節力』という言葉です。

調節力とは遠方にメガネなどでピントを合わせた場合、そのまま、自分の目の力(毛様体筋の力)を使って、ピントを、近くに合わせる事ができる力を意味します。 

調節力が弱くなってくると、近くに合わせられる距離に制限が出てきます。

例えば30cm程度の近くが見えていたものが、40cm、60cm、1m・・・と、どんどん近くの見える限界が遠くなっていくのです。

老眼とは

老眼とは、一般的に40~50歳頃に顕著になる近見視機能の低下(つまり調節力)のことで、加齢に伴う漸進的な調節機能の低下によるものです。

これは人生の早い時期から始まり、最終的には約50歳までに完全に調節機能が失われる。

調整力はD(ディオプター)で表し、近視はマイナス、遠視はプラスとなります。

機械測定による客観的な調節力の測定を行うと、10年ごとに約2.5Dずつ直線的に減少し、約50~55歳でゼロになるといわれています。

これの意味するところは、人間の寿命のおよそ3分の2を経過した時点で、正常な生理的機能である調節機能が完全に失われてしまう、つまり完全な老眼になるということです。

人間の他の正常な生理学的機能で、これほど早く、これほど確実に、これほど深刻かつ体系的な機能低下が起こるものはほとんどないといって過言ではないでしょう。

老眼は、おそらく加齢に伴う調節力の変化の結果であるといえます。

それは人生の初期に始まり、最終的に調節力が完全に失われる時点(50歳)を超えて、死ぬまで続くのです。

人間の調節力の3分の2は35歳までに失われるが、もともと調節力には余力が非常にあるため、この年齢ではほとんどの人はまだその喪失に気づかない人が多いのが現状です。

人間が老化を避けることができないのと同じように、臨床的に調節力の低下を免れることは非常に困難で、不可能であると思って良いでしょう。

現代人が抱える老眼?

前述の通り、老眼を体感するのは40代以降であることが一般的です。

しかし、稀に30代でもそれを感じることがあります。

調節という機能は、毛様体という筋がそれを司っています。

PCやスマホなどを見る時間が長時間になると、毛様体という筋肉が収縮している時間も長時間となります。

そうすると、毛様体の過緊張状態が恒常化してしまい、遠くを見ようとしても、ピントが合わない、近視のような状態となってしまいます。

見かけ上、仮性の近視のような状態であるといえます。

マスコミなどでいわれる若い方でも感じる『スマホ老眼』とはこのような機序によるものと思われます。

いわゆる『スマホ老眼』は、ほんとうの意味での老眼ではありません。 

そのため、毛様体の筋の緊張を解すために、遠方を見る時間を一定時間も受けることが必要です。

スマホやPCを見る時間が長時間続いた後は、窓の外など、遠くを眺める時間を設けると良いでしょう。

近視の人は老眼にならない?

前述のように必ず人は老眼になります。

ただ、近視の人は老眼に気づきにくい事があるということです。

遠視の人は、普段、メガネを掛けずにピントが遠方に合っています。

そのため、調節力の低下とパラレルに近くの見える距離が遠くなっていくため、老化による老眼を年々体感しやすいです。

近視の方は、ピントがもともと、手元にあるため(調節力を全く使っていない状態でピントが近くにある)、いくら調節力が低下していっても、近方にピントが合っているため体感しにくいのです。

遠方が見えるメガネなどをつけると、近くが見えないことに気づくかもしれません。

老眼を遅らせる(調節力を回復させる)ことができるのでしょうか?

老眼は水晶体という、カメラのレンズが硬化することが一因といわれています。

これを柔らかくするためにレーザーを当てる手術が考えられたりしましたが、良好な成績は得られていません。

現在のところ、失われた水晶体の弾力性、つまり調節力を回復させる治療法は見つかっていません。

老眼を治療する目薬はある?

海外では非常に盛んに開発、臨床研究が始まっており、現時点で数十件が治験開始となっています。

基本の効果は、瞳孔という茶色目の光の通り道を小さくする効果のある点眼です。

それをすることによって、ピンホール効果が得られます。

ピンホール(小さな穴)を通して見ると焦点(ピントの合うところ)が広くなります。

それにより、近方にも焦点が合い、老眼症状が軽減するというものです。

しかし、その効果は、点眼効果の続いている数時間のみで、限定的、かつ、効果は弱いです。

老眼が治る手術はある?

現在、老眼そのものを治療する方法は無いと前述しました。

しかし、手術にて老眼を克服することができる手術があります。

眼内レンズの移植です。

多焦点眼内レンズというものがあり、これは、焦点が2つ以上あるレンズです。

これを眼内に移植すると、近視、遠視、乱視を矯正できるだけでなく、焦点が複数あり、近方にも焦点があるために、水晶体が動かなくても近くが見えるというからくりです。

50歳以上では水晶体が機能しなくなる、Dysfunctional lens syndrome(DLS)という状態になります。

その一面が老眼なわけですが、そのような状態が進んでいくと、いわゆる白内障となります。 

DLSになったけど、重度な白内障ではまだない状態であっても白内障手術や、眼内レンズ移植手術により、老眼を含めた視機能改善が得られることがわかってきています。

更に毎年のように開発が進んでおり、国内外で多焦点眼内レンズの移植件数は急増しています。

ただし、レンズ選びや手術方法などには術者の技術、知識が大きく影響するため、間違いのない眼科医を選ぶことも重要です。

[執筆者]

野口三太朗先生

ASUCAアイクリニック仙台マークワン主任執刀医

2006年、東北大学医学部卒。

複数の病院で腕を磨き、2021年に大阪大学大学院博士課程修了。

2022年、ASUCAアイクリニック仙台マークワン主任執刀医に就任。

数万件に上る執刀経験を持ち、海外からの情報をいち早く取り入れ、治療に活かしている。

世界初、日本発という臨床研究を多く手がけ、最新技術の導入に努める。

世界三大屈折白内障学会にて、グランプリ(総合一位)などの受賞を毎年のように受賞し続ける、世界屈指の屈折白内障臨床医。

保有資格(専門分野):

・日本眼科学会認定 眼科専門医

・笑気麻酔鎮静エキスパートインストラクター

・Rayner社 多焦点眼内レンズライセンス認定医

・角膜内リング フェラーラリング認定医

・EYEOL社 三焦点眼内レンズ(TriDiff, IPCL三焦点回折)Executive Proctor認定医

・ICLインストラクター

・2016-2020 AAO Young Ophthalmologist

・医学博士

Instagram:@asuca_eye_clinicでも情報発信中!

ASUCAアイクリニック

https://asuca-eye.com/

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キレイ研究室
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「今よりもっと、これからもずっときれいでいるために。」をコンセプトに、化粧品開発、ヘルスケア、ネイリストなどさまざまなジャンルの専門家が、中立の立場から「キレイ」についてのコラムを発信しています。
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