背景に「2000人の消えた赤ちゃん」問題…韓国で「内密出産」認める新法が施行 孤立出産と乳児遺棄を防ぐ

背景に「2000人の消えた赤ちゃん」問題…韓国で「内密出産」認める新法が施行 孤立出産と乳児遺棄を防ぐ

●生みの親個人の情報開示は本人の同意が必要

ーー新しく始まった保護出産の流れを教えてください。

「予期せぬ妊娠により危機的な状況に陥った女性は、その先のことを考えられずパニック状態になることがあります。まずは韓国全体で16カ所ある地域の相談機関に相談をすることで、自分の状況を整理し、生まれてくる子どものことを考えられるようになります。

保護出産が注目されがちですが、大事なのは16カ所の相談機関による丁寧な支援です。その結果、自分で育てる、または子どもを養子縁組に託すということを決めていきます。最後にどうしても難しい場合は、保護出産を申請します。指定された相談機関の大半が妊娠期の入所施設を運営してきた社会福祉法人です。

相談機関を経て、女性は希望する医療機関に仮名で入院して、出産します。出産や入院費用は国や自治体が負担します。保護出産した女性は産後7日間、赤ちゃんを自分で育てるかどうかを考える『熟慮期間』を持ちます。その上で、地域の相談機関や管轄する自治体に引き渡す決断をした場合、その時点で親権は停止します」

ーー保護出産で生まれた子が出自を知る権利はどう保障されるのですか。

「保護出産した女性には氏名や連絡先などを記録に残すことが義務付けられます。女性の情報は、児童権利保障院という日本のこども家庭庁にあたる国の機関が保管します。保護出産で生まれた子は、成人に限らず、未成年でも保護者の同意のもとで、出生証明書の公開請求ができ、出自を知れるようになっています。ただし、生みの親の個人を特定するような情報は、生みの親本人の同意がなければ開示されません」

●法施行後1カ月で、419件の相談電話

ーー法律では、まずは孤立出産や乳児遺棄を防ぐことを重視しています。妊娠に悩む女性と地域相談機関とをつなげるために、女性に情報をどう届けるのでしょうか。

「大事なことは『敷居の低さ』です。悩んでいる女性たちには『本当に相談していいんだ』という安心感を持ってもらわなければなりません。ベビーボックスにあれほど多くの人が集まったのは安心感を提供したからだと思います。

女性たちとつながれるように、『危機妊娠保護出産法』の施行とともに、『危機妊産婦相談電話1308』を開始しました。相談電話の広報のために、薬局にポスター、リーフレット、シールを配布しているところです。

法施行後1か月間で、『1308』に419件の相談電話が寄せられ、16人が保護出産を申請し1人が撤回した状況です。産前・産後の支援は、16カ所の地域相談機関が行いますが、このうち14カ所はこれまで妊娠期支援を担ってきた施設なので、たとえ保護出産を申請したとしても、その後の女性の揺れ動く心境に寄り添いながら丁寧に支援していくという、これまで培われてきた支援のノウハウが十分に生かされることが期待されています」

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