『虎に翼』28歳俳優の「鰻重&天重」シーンがすごい。家族の不和を孤独に描く“表情”に注目

『虎に翼』28歳俳優の「鰻重&天重」シーンがすごい。家族の不和を孤独に描く“表情”に注目

脇広げから読み解く演技


 脇を広げてワイルドに食べるということでは、本格的な調理シーンに初挑戦した『にがくてあまい』(東海テレビ、2023年)も共通している。

 同作で井上が演じたのはゲイでベジタリアンの美術教師・片山渚。第1話、広告代理店でばりばり働く主人公・江田マキ(生駒里奈)が、同居予定だった彼氏に捨てられ、ゲイバーでくだをまいているところへ野菜を抱えた渚がやってくる。

 渚は泥酔したマキを介抱してそのまま彼女の家で一泊する。翌朝、マキが目を覚ますと、キッチンで渚が朝食を作っている。さすが美術教師のこまやかな手つきで、野菜を刻んで煮込んだミレットスープをこしらえるのだが、マキは大の野菜嫌い。

 せっかく用意された野菜料理を前に躊躇するマキを横目に、渚はうまいうまいと自作を食べ進める。ここでも井上はやっぱり脇を広げる。料理と井上祐貴、そして脇広げ。この特徴的な仕草から、彼の演技を読み解けないだろうか?

脇を広げることを禁じられた演技の場

『虎に翼』に話を戻すと、鰻重を食べる場面では全然脇を広げていないことがわかる。それどころか、まるで修道院のように静かな星家の食卓では、ぎっちり脇をしめて食べることが厳格なマナーとして守られている。

 父と子の会話もほとんどない。後妻で星家に入ってきたという手前、百合は朋一と妹の星のどか(尾崎真花)に遠慮してばかりいる。対して人懐こい優未による鰻重への純粋な感嘆は、新鮮な空気だった。

 お祭りで金魚すくいを楽しんだ航一のエピソードを寅子がゲラゲラ笑いながら披露すると、場の空気は静まり返る。寅子と優未の快活さvs朋一とのどかの厳粛な重さみたいなものが、避けがたいわだかまりとなってこの食卓でせめぎあっている。食べる人・井上祐貴にとっては、脇を広げることを禁じられた演技の場でもある。

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