ニュージーランドのマッセイ大学らの研究グループは、アルコール関連の障害や早死によって失われた健康寿命の年数を推定したところ、2018年にはアルコールが原因で7万8277年分もの健康寿命が失われたことを明らかにしました。この内容について中路医師に伺いました。
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監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
研究グループが発表した内容とは?
ニュージーランドのマッセイ大学らの研究グループが発表した内容を教えてください。
中路先生
今回発表された研究は、ニュージーランドのマッセイ大学らの研究グループが実施したもので、研究成果は学術誌「Addiction」に掲載されています。
研究グループは、ニュージーランドの入院記録やACC(事故補償公社)、調査データ、FASD(胎児性アルコール・スペクトラム障害)に関連する新しい推定値、国際的なアルコール寄与率を用いて研究を実施しました。その結果、2018年にはアルコールによる他人への害によって、7万8277年の健康寿命が失われたと研究で明らかにしました。内訳を見ると、主な原因はFASDで90.3%を占める結果になりました。次いで多くなったのは交通事故で6.3%、対人暴力で3.4%でした。
また、先住民であるマオリ族は、より高い割合で影響を受けていることも判明したことに加え、飲酒者自身への害によって失われた健康寿命は6万174年分であることもわかりました。この結果から、アルコールによる他人への害の方が、飲酒者自身への害よりも大きくなったことが明らかになりました。
研究グループは、今回得られた結果について「FASDによる障害は、ニュージーランドにおけるアルコールによる他者への危害の主な原因であると思われる。FASDを考慮すると、ニュージーランドでは他者への危害の健康負担は飲酒者への危害よりも大きく、民族差は他者への危害の不公平を示している。危害の負担を定量化することは、効果的なアルコール政策を実施する価値となり、あらゆる危害を含むべきである」と結論づけています。
研究が実施された背景とは?
今回の研究が実施された背景について教えてください。
中路先生
研究グループは、論文の中で「世界的なアルコールによる害がどれくらいあるかを知るための定量化は、飲酒者本人に対するアルコールの影響に関するもので、飲酒者以外の人々に対するアルコールの害の寄与はほとんど見落とされてきた」と指摘しています。そのため、世界や各国の政策課題を形成する上で重要な役割を果たす計算において「アルコールの健康への総影響は、世界的にも国内的にも過小評価されている」とも述べています。
研究グループは、アルコールが他者に及ぼす害のうち、妊娠中の飲酒、暴力、交通事故が定量化可能としています。また、研究が実施されたニュージーランドでは、先住民のマオリ族と、そうでない人でアルコールによる害のリスクが異なっていることも指摘されています。例えば、マオリ族は他人の飲酒による暴力を経験する確率が35%高く、マオリ族の子どもは非マオリ族の子どもよりもアルコール事故で死亡、または重傷を負う可能性が高いというデータもあります。加えて、マオリ族の女性は、他民族と比べて妊娠中の飲酒の有病率が著しく高く、FASDの発症率が高いと推定されています。
こうした背景から、研究グループは今回の研究を実施しました。
配信: Medical DOC