がんの診断を受けることは、患者さんやその家族にとって非常に大きな不安やショックを与えます。そして、不安や葛藤を抱えながら治療に臨むのは決して容易ではありません。今回は、そんながん患者さんの“心のケア”に焦点を当て、「こころサポートクリニック」の平山先生に話を伺いました。
監修医師:
平山 貴敏(こころサポートクリニック)
三重大学医学部医学科卒業。その後、東京大学医学部附属病院精神神経科入局、JR東京総合病院メンタルヘルス・精神科、東京都立松沢病院精神科、国立がん研究センター中央病院精神腫瘍科などで経験を積む。2024年、東京都千代田区に「こころサポートクリニック」を開院。日本精神神経学会専門医・指導医・認知症診療医、日本総合病院精神医学会専門医・指導医、日本サイコオンコロジー学会登録精神腫瘍医。日本認知・行動療法学会、日本緩和医療学会の各会員。
「がんかもしれない…」「がんと告知された」メンタルにどのような影響を及ぼす?
編集部
「がん治療は心を保つことも大事」と聞きました。
平山先生
そうですね。治療や検査手段の進歩により、がんは以前のような「不治の病」ではなくなりました。それでも、やはり前向きに心を保ちながら、がん治療を続けることは簡単ではないと思います。そのため、私は「無理に前向きになる必要はない」「がん治療と上手に付き合うことが重要」と、患者さんにお伝えしています。
編集部
実際、がん患者さんが精神的不調をきたすことは多いのでしょうか?
平山先生
がん患者さんの多くは、がんの告知や病状の悪化、薬の副作用などに対する不安や心のつらさを経験します。また、「眠れない」「途中で何度も起きてしまう」といった不眠症状や、「食欲がない」「食べられない」といった食思不振などをきたす患者さんも少なくありません。がん患者さんが様々なストレスによって、何らかの精神的不調をきたすことは多くみられます。
編集部
具体的に、どのような症状が出ますか?
平山先生
例えば先述した「眠れない」「食べられない」のほかに、「がんの告知後、頭が真っ白になって何も手につかない」「不安が強く治療を始められない、継続できない」「将来に対してネガティブな事ばかり考えてしまう」「がんや、がん治療のことばかり考える」といった声はよく耳にします。さらに「暴飲暴食をしていたからこうなった」「仕事を無理しなければよかった」「がん検診を受けていれば……」といった後悔に駆られ、「家族や職場に迷惑をかけて申し訳ない」「自分のせいで」と自責的に考えてしまう人も多くいらっしゃいます。
がん患者さんの心のサポート
編集部
がんの告知や治療に伴う不安に対して、どのように向き合えばいいのでしょうか?
平山先生
あまり知られてはいませんが「精神腫瘍学(サイコオンコロジー)」という言葉があります。心の研究をおこなう精神医学・心理学(サイコロジー:Psychology)と、がんの研究をする腫瘍学(オンコロジー:Oncology)を組み合わせた造語で、がん医療における精神的・心理社会的問題に取り組み、がん患者さんとそのご家族がより良い生活を送れるようにサポートする臨床医学領域です。不安な気持ちは、1人でなんとかしようとせず、家族や友人、医療者などに相談して、それでもつらい気持ちが緩和できなければ専門家に相談することをおすすめします。
編集部
精神腫瘍学の専門家が存在するということですか?
平山先生
「サイコオンコロジスト」と呼ばれる専門家がいます。医師や看護師、心理師など、様々な職種のサイコオンコロジストが、がん患者さんやそのご家族をサポートしています。中でも、特に専門的なアドバイスや、最適な薬物療法を提供する知識・技術をもった専門家が精神腫瘍医です。
編集部
どのような役割を担っているのでしょうか?
平山先生
がんやがん治療に関する適切な情報を提供したり、治療を続けるがん患者さんの心の問題に寄り添ったりします。患者さんやそのご家族が孤立しないように支えることで、最善の治療を受けられるようサポートするのが役割です。がん治療についての不安は、身近な人に話を聞いてもらうのが重要ですが、専門家に相談してみるのも大事なことです。
編集部
精神腫瘍医は、精神科医や心療内科医とは違うのでしょうか?
平山先生
精神腫瘍医は、がん患者やその家族の精神的なケアを専門におこなっているので、がんの病態やがん治療に関する知識が豊富で、どの時期にどんな不安を抱きやすいかなどを深く理解しています。がんやがん治療における心理的・精神的な問題を包括的にサポートしてくれるのが精神腫瘍医です。
配信: Medical DOC