MBSが謝罪 バラエティー密着放送で「仕込み発覚」、「なんとしてもテレビに出たい」ルール無用の業者が仕掛けるヤラセの実態

MBSが謝罪 バラエティー密着放送で「仕込み発覚」、「なんとしてもテレビに出たい」ルール無用の業者が仕掛けるヤラセの実態

●「何も撮れ髙がない」スタッフに気を回してヤラセを用意してしまう業者も

業者がウソを仕掛ける2つ目の可能性は「業者がテレビ取材者のことを思うあまり、良かれと思って自発的に仕込んでしまったケース」である。これは意外とよくある話で、私自身も経験がある。

密着取材は成功させるのに時間がかかるものだ。テレビがよく密着する対象は、「買取・鑑定業者」のほか、「鍵開け業者」「害虫駆除」といった「トラブルバスター」が多い。彼らにいくら密着したとしても、そんなに簡単に「面白い案件」は発生してくれない。

何日も密着して、これだ!という出来事をようやく撮れたのに、客が取材・放送を断ることもよくある。何度も悔しい思いをして「ボツ素材」ばかりが増えていく。

つらい思いをしている現場のディレクターを横で見ている業者が「かわいそうだからなんとかしてあげよう」といろいろ仕込んでしまうことはままあるのだ。

自分の知り合いや社員に「客のふりをして」と頼んでしまったりする。テレビの取材に慣れている好意的な業者が「助けたい」と思ってやってしまう。こちらに事前に相談をしてくれたら阻止できるが、相談なく仕込まれたらどうしようもない。

彼らは仕込みに罪悪感がないし、そもそも悪いことだとわかっていない場合が多い。

事前に「仕込むよ」と相談され、慌てて止めて話を聞いてみると、「実際にある話をちょっと再現するだけだよ」「テレビはこのくらいのことはいつもやっているだろう」などと話す。

あるときは、「この間取材にきた『●●』という番組で、同じような仕込みを頼まれた」というケースもある。モラルの低い番組もあって、あぜんとしてしまう。とにかく、業者側はあくまでも善意から「ヤラセまがい」のことを平然とやってのけてしまう。

こうした「善意の仕込み」には気がつきにくく、防ぎにくい。個人的な経験から言うと、それまで苦戦していた取材が突然うまく進み出したら疑ってかかったほうがよい。

●テレビが仕込みトラブルを避けるために「密着」をやめる必要はない

テレビ側は業者による仕込みを警戒することはできるが、騙される可能性はどうしてもゼロにはできないだろう。用心のために「誓約書」を作って、口頭でいちいち業者に確認していくのもよいだろう。

そして、遠回りであっても「ゆっくり時間をかけて制作すること」も再発防止になる。「業者や取材相手による仕込み」は短期間で急いで制作した場合に発生しがちだ。ある程度の制作費をかけて、制作会社に余裕を与えることが大切だ。

私がMBSの件を受けて憂慮するのは、放送局が「業者に嘘をつかれたら防ぎようがないから、密着取材はやめてしまおう」と考えてしまうことだ。

「事なかれ主義」の考え方では、良質なノンフィクション系のコンテンツやドキュメンタリーなどの取材ができなくなってしまう。

取材相手との適切な距離感を保ちながら、じっくりとノンフィクション系の良いコンテンツを制作することは、テレビに対する信頼を高めることになる。それは大切な「テレビ業界の未来への投資」だと私は考える。

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「専門家を、もっと身近に」を掲げる弁護士ドットコムのニュースメディア。時事的な問題の報道のほか、男女トラブル、離婚、仕事、暮らしのトラブルについてわかりやすい弁護士による解説を掲載しています。
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