そもそも絵を描く人として認識されたのはいつから?
三代目JSBのパフォーマー、俳優、ソロアーティストという主に3つの肩書き(本人は三足の草鞋と表現)を持つ岩田剛典が、そもそも絵を描く人として世の中ではっきり認識されるようになったのはいつからだったか?
きっかけは『誰も知らない明石家さんま』(日本テレビ、2020年放送)に出演したことだった。番組の主旨は、MC明石家さんまが画商に扮して一般公募した作家たちを発掘し、その作品の買い手を「明石家画廊」で見つけるというもの。岩田の作品もこの機会にテレビで初公開された。
カンバスに描き込まれ、立ち上がる岩田の作品は、細密画のように繊細で、彼の画家としての才能をひと目で理解させる一級品だった。監修として出演する画商からは「名前を隠しても100万円で売れる」とお墨付き。
三足の草鞋に画家という肩書きもここで追加してしまう。他のアーティスト活動同様に、絵画世界にも興味の赴くままに触手を伸ばしてみたら、自然と作品化してしまったみたいな。そういう軽妙さと肩肘はらない制作態度。岩田剛典にとっての絵画とは、好きと努力を超越した先にある自由な空間そのものではないかと思う。
作品間の豊かな類似と未来図
制作期間は2か月。その間、筆をタッチしていくカンバスとひとり向き合う中で何を思い、見たのか。誤解を恐れずにいえば、彼自身の未来図を無意識的に垣間見ていたんじゃないかな(実際、こうして24時間テレビの帯企画につながっているのだから)。
幻想的な図像が配置される作品世界は、わいてくるイメージを自由に連想して具現化したもの。イメージの連鎖を自由に筆記するスタイルは、どこかシュールレアリスム的でもある。本人にとっては自分を改めて知る作業としてあり、岩田剛典というひとりの人間の脳内イメージを開示する手続きみたいなものかもしれない。
三代目JSB再始動の2023年にリリースされた「この宇宙の片隅で」のミュージックビデオで、大きなカンバスを前にした岩田の姿はそこからグループ全体とソロの未来を見つめるような眼差しで、あまりに象徴的だった。
完成したカンバスの現実は、描き手である岩田から見た鏡みたいなものでもある。そう、鏡。明石家さんまとの縁を辿ると、2023年放送の『誰も知らない明石家さんま』内の再現ドラマ「笑いに魂を売った男たち」で岩田が8人目のさんま俳優を演じたとき、楽屋の鏡に繊細で控えめな表情が映る印象的な場面があった。
あるいは、1stアルバム『The Chocolate Box』のリード曲「Only One For Me」のミュージックビデオや『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』(Netflix、2023年)など、一貫して鏡に写る人としてふるまってきた作品間の豊かな類似がある。
2ndアルバム『ARTLESS』のワートワークには『誰も知らない明石家さんま』で初披露した絵画世界に配色したような自作を選んでいる。筆者は『ARTLESS』Blu-ray特典映像収録時に等身大サイズに拡大されたパネルを前にしたが、アートが屹立するのを感じ、作り手の筆運びを追体験した。
その意味では24時間以内に完成させる必要がある今回のアート制作では、その過程をつぶさに垣間見ることができる。筆をスプーンに持ちかえ、手元をいかに安定させ、完成を待つカンバスの現実と向き合うのか。そしてそこにどんな未来図を見るのか。
配信: 女子SPA!