『地面師たち』『水ダウ』で怪演の76歳俳優「なりすまし老人役は“まさに今の私”です」借金、大病、独居暮らし…激動人生でも役者を続けるワケ

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小林幸子と『のど自慢』に!「演劇に生涯を捧げるつもり」

――幼い頃から役者になりたかったんですか。

五頭:本当は歌手にもなりたかったんです。高校生の時にNHK『のど自慢』の故郷の新潟会場にも出ましたよ。その当時は同じ新潟出身者の小林幸子さんも出ていて、いつも彼女が優勝していました。僕は学ラン着て『あゝ上野駅』を歌いましたが残念ながらでした(笑)。


――そうなのですね。それがなぜ役者に。

五頭:歌うことも演じることでしょ。高校生の時に市民劇団の公演を観て衝撃を受け、自分とは別の人間を演じることに魅力を感じ、演劇サークルを作ったんです。違う人になった姿を観てもらう喜びや楽しさを知ってしまったんです。小さい頃からモノマネが上手いねと言われることに喜びを感じていたし、単純に演じることが好きだったんです。

――好きなことを追い続けたんですね。

五頭:ずっとそうしてきました。演劇に生涯を捧げるつもりできたから、一度の事実婚はしたものの、子供も作らず家庭というものは持たなかった。まあその後、下顎の骨が溶ける病気をして顔の左側に金属プレートを入れる手術を何度もして……その後、胃がんも患っているので、それどころではなかった時期もありました。

「一回しかない人生。悔いを残したら嫌じゃん」

――今もおひとりということでしょうか。

五頭:はい、団地で一人暮らしをしています。その団地では理事長をしてまして、独居老人の生存確認的な意味合いも込めて、回覧板を渡しに一軒一軒、尋ねるんですよ。この夏はもう毎日のように救急車が来て、老人が運ばれていくのを見ました。


――役者として活動しつつ理事長としての活動もするのは大変ですよね。

五頭:そうね。ゴミ出しでは、ペットボトルのラベルを剥がしてキャップは別にして…っていうことを毎日のように言ってるんですけど、老人達が言うこと聞いてくれなくて。でも最近、だんだんとラベルを剥がしてくれるようになってね。あの時の嬉しさったらないですよ。ちなみに集めたキャップは近所のライフに持って行っています。

――もうライフのCMを狙うしかないですね。現代は元気な高齢者も増えていますが、ひとりで生きる寂しさ、孤独を感じることはありますか?


五頭:寂しさ、孤独……あまり考えたことないよ。孤独や寂しさを感じたらその考えや行動から逃げればいいだけ。逃げるっていうと、負けだとか死とかの方法を考えてしまう人も多いですが、人生の中で逃げる瞬間が何度あったっていいと私は思っています。

――これから高齢者世代になる読者に何かアドバイスをお願いできますか?

五頭:難しいなあ。それぞれ人生のバックボーンや生き方の違いや考えもあるでしょうから一言では言い切れませんが……自分がどうしたいか、そのためにどうするか、その後どう行動するか。この三段論法に尽きるのではないでしょうか。

ありきたりな言葉だけど、一回しかない人生ですよ。悔いを残したら嫌じゃん。そういう意味では私は自分のやりたかったことを仕事として最後まで全うできたら、こんな嬉しいことはないと思っています。

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信念を持って役者として活動されてきた方ならではの強いお言葉です。五頭さんのように悔いを残さず生きたいものです。

<取材・文・撮影/河合桃子 写真提供/五頭岳夫さん>

【河合桃子】
1977年、東京都生まれ。男性週刊誌の記者をしながら、気になった女性ネタを拾って書いたりしてます。2児を育てるシングルマザーでもあります。

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