デビュー作『ウツ婚!!―死にたい私が生き延びるための婚活』で、うつ・摂食障害・対人恐怖・強迫性障害などの精神疾患を抱えながら婚活に励んだ日々を綴った石田月美さん。
コミック化もされ話題となったデビュー作の“その後の人生”を綴った『まだ、うまく眠れない』(文藝春秋)が2024年7月25日に出版されました。
この記事では、本書から一部抜粋してお届けします。
凡庸であるということは女性として生きる上で強い
Uは私の知る中でもっとも凡庸な女性である。そして凡庸であるということは女性として生きる上でとかく強い。Uを見ているとそんな風に思ってしまう。
Uと私は細く長い付き合いをしており、それはひとえにUの社交性の高さに依る。Uは女友だちがとても多く、私のような流浪している人間はすぐに関係が途切れてしまうのだが、Uは出会ってきた女性たち、所属していたコミュニティ、ほとんどすべてと縁が続いており、そんな彼女を私は羨ましくも真似できない、つくづくすごい人だと思ってきた。
しかしそれよりも素晴らしいUの才能を私は出会った頃に目の当たりにし、嫉妬するほどだった。10代の頃のUは瞬発的なユーモアに長けており、その言語能力は今物書きとして生きている私でも敵わないほど圧倒的で、私はUに引っ付きおこぼれをもらうように女友だちの輪に入れてもらうのが常であった。
「大人になるということは自分の凡庸さを受け入れるということ」と言った人がいるがUに関してそれは当てはまらない。彼女は努力して凡庸になっていった。彼女が大学に入った頃が転機だったように思う。
Uの入った女子大での不文律を私は知るすべもないが、彼女が大学生活を謳歌する上で、それはきっと必須だったのだろう。そのような文化を否定する気は全くないし私だって自分ではかなりのミーハーだと思うが、Uの才能に鑑みてひどく勿体ないと思った。
誰よりもお洒落で誰よりもジョークの上手い彼女は、どんどんマスメディアが垂れ流す記号的な女子大生になっていった。流行りなのだろうが既視感のある服装に髪型。有名女子アナが勧める化粧と美容法。そして、彼女のジョークはどんどん誰かを「いじる」ものになっていった。
Uに対して嫉妬するまでの憧れを抱いていた私はその変化に落胆し、おこがましくも苦言を呈したことがあるが、そんな私をUは「いつまでもサブカル」と一蹴した。Uが共通の女友だちの想い人とうっかり寝てしまったときも「酔っ払ってて断れなかった」と何の躊躇いもなく言い私を驚かせ、驚く私を鼻で笑った。
私を次第に見下すようになった友人
社会人になって自由に使えるお金が増えるとUはますます凡庸になっていった。実家住まいのUは給料すべてが自分の小遣いで、年上の彼氏と付き合っていたのでデート代もかからず、いわゆる「自分磨き」に精を出した。
ときたま会うUは完全に完璧に、ファッション誌が勧めるものすべてを身に着けており、顔にはシミも毛穴も一つもなく、爪は派手過ぎず地味過ぎないネイルがサロンで施してあった。
会うといっても、その場所はホットヨガなどに指定され、私は体験クーポン五百円みたいなもので一緒に居させてもらっていた。Uがいつもの週末を過ごす、ゴルフやエステに付き合うほどの財力を私は持っておらず、Uが喋る呪文のような基礎化粧品の数々や誰かの噂話に私は全くついていけなくなっていた。
でもそれは、ちゃんとした社会人になれていない私が悪いのだ。事実、Uの仕事の苦悩が私にはわかってあげられなかったし、いい歳こいてフリマで買った服を着ている自分とUのいつ会っても毎回違う最新流行のブランドバッグを見比べ落ち込んだりもした。
そんな私をUは次第に見下すようになり、彼女なりのジョークに包まれたその態度は私がUを敬遠する理由の一つにもなった。それでも何かあると私を誘ってくれるUはやっぱり寛大で、それが大酒飲みの彼女の酒のアテであろうと、私はできる限り顔を出した。
だから、その日の集まりも私は結構楽しみにしていたのだ。数年ぶりにUとその女友だちと数人で開かれた会に行くため、私は夫に数週間前から子どもたちを頼み、数日前から家族の好物だらけの夕飯を心がけ、朝早く起きて身支度を済ませ、意気揚々と出掛けていった。
配信: 女子SPA!