バイオリニストの葉加瀬太郎さん(56)が、自身の公式サイトにて「ラムゼイ・ハント症候群」と診断されたことを明かしました。顔の半分が動かなくなったことがきっかけで、病院で検査を受けたそうです。ラムゼイ・ハント症候群は、脳疾患などほかの症状との判別が難しく、治療が遅れると後遺症で社会復帰に悩むケースもあります。そこで、ラムゼイ・ハント症候群の症状や特徴、治療方法、ほかの顔面麻痺との見分け方について説明します。なお、葉加瀬さんは「左半分以外は元気いっぱい」とも明かしており、翌7日には、コンサートツアーを無事開催しています。
※この記事はMedical DOCにて【「ハント症候群」とは?症状・治療法についても解説《医師が監修》】と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。
監修医師:
和佐野 浩一郎(医師)
慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了。2018年より独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター聴覚・平衡覚研究部室長。日本耳鼻咽喉科学会専門医・指導医・補聴器相談医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医、日本耳科学会耳科手術暫定指導医、頭頸部がん専門医・指導医、日本がん治療認定医機構日本がん治療認定医、日本気管食道科学会気管食道科専門医。
ラムゼイ・ハント症候群とは
ラムゼイ・ハント症候群とはどのような病気ですか?
顔面神経麻痺に加えて耳の痛み・水ぶくれ、難聴、めまいなどが突然起こる病気です。10万人に約5人が発症するといわれており、顔面神経麻痺では発症頻度が高いものです。
ラムゼイ・ハント症候群は、水痘帯状疱疹へルぺスウイルス(すいとうたいじょうほうしんヘルペスウイルス)が顔面神経で悪さをすることで発症します。
原因はウイルス感染ということですが、うつるのでしょうか?
基本的にラムゼイ・ハント症候群は、子どもの頃に水痘に感染した際に身体の中に潜んでいる水痘帯状疱疹へルぺスウイルスが再活性化して起こるため、人に感染することはまずありません。しかし、患部の発疹に触接触ることでウイルス感染を起こす可能性はあります。
通常、ウイルスは免疫機能の働きによって顔面神経の神経節でおとなしくしています。しかし、疲れやストレスなどで免疫機能が低下するとウイルスの勢いが抑えられなくなり、顔面麻痺などさまざまな症状を発症します。
症状について詳しく教えてください。
ラムゼイ・ハント症候群の主な症状は、顔面神経麻痺による表情筋の運動障害です。片側の目や口をしっかりと閉じることができず、おでこにもしわを寄せることができなくなります。
ラムゼイ・ハント症候群では顔面神経だけでなく、周辺の脳神経の働きをも障害するため多種多様な症状が現れます。耳の周りに水ぶくれや強い痛みが起こる耳の帯状疱疹、難聴やめまいなども発症するのが特徴です。
これら症状のあらわれ方はさまざまで、数日から1~2週間かけて徐々に症状が出てくることもありますが、すべての症状がそろうのは半数程度です。治りにくい顔面麻痺では後遺症が残るケースも多くあります。
何科を受診すればいいのでしょうか?
耳鼻科です。耳痛や耳たぶの水ぶくれなど耳の症状が早く出れば、早期に耳鼻科で適切な治療を受けられるため症状を軽くできます。しかし、めまいや顔面神経麻痺が起こると脳外科や内科を受診する人がいて、治療が遅れるケースもあります。
脳疾患による顔面神経麻痺との簡単な見分け方は、おでこのしわです。脳に異常がある場合には額の麻痺が起こらないため、顔面麻痺でもおでこにしわをつくれることがあります。
また、ラムゼイ・ハント症候群と似ていますが、単純へルぺスウイルスによって発症するベル麻痺の顔面麻痺では、合併症はなく顔面の麻痺だけです。
ラムゼイ・ハント症候群の治療方法について
早期治療できたときの完治率や完治するまでの期間は?
ラムゼイ・ハント症候群では早期治療によって予後が左右されます。発症してから7~10日間かけて顔面神経はどんどん変性していくので、7日以内に十分な治療を行うことが大切です。
回復できるかどうかは、症状が最も重いときの症状の程度が関係します。早い段階で治療ができ、麻痺が軽度ならたいてい1~2カ月程度で治ります。
顔の片側をまったく動かせない重度の麻痺だと、完治できるのは60~70%程度です。一般的には治りやすいのは発症から3カ月以内ですが、半年から1年以内でも回復する可能性はあります。
顔面麻痺の後遺症では、目を閉じると口が一緒に動く病的共同運動やけいれんなどは見た目に異常が分かるため精神的につらい状況を引き起こす可能性が高いでしょう。めまいは1~2カ月程度で改善するものの、難聴は完治しないこともあります。
どんな治療が行われますか?
早期の治療はウイルスに対する薬の投与で、ステロイドと抗ウイルス薬を使います。水痘帯状疱疹へルぺスウイルスには一般的に「バラシクロビル」や「アシクロビル」が投与されます。
軽度の症状であれば外来通院で内服治療を行いますが、症状が重度の場合には入院して点滴治療が可能です。10日以内に適切な治療を開始できれば、顔面神経麻痺を比較的軽く抑えることができます。
しかし、ラムゼイ・ハント症候群を発症した人の約半数は後遺症が残ってしまうため、回復期にはリハビリが必要です。リハビリは病的共同運動やひきつれの症状を予防するのが目的で、神経障害がある方にだけ行います。
後遺症が残ったらどうなりますか?
ラムゼイ・ハント症候群の顔面神経麻痺の症状が重症だと、病的共同運動やけいれん、ひきつれなどを起こすことがあります。ほかにも、めまいや難聴などが残っていると、人とのコミュニケーションだけでなく、車の運転などの日常生活に支障がでてしまうことがあります。
顔面神経の後遺症にはボトックス注射や形成手術といった治療法があります。ボトックス注射は外来通院で受けられ、効果が持続する2~5カ月おきに治療が必要です。形成手術は緊張している表情筋を切除する方法ですが、治療を受けられる医療機関は限られています。
配信: Medical DOC