パリ五輪の射撃混合エアピストルで、特別な装備をせずラフな姿で出場し、「無課金おじさん」と話題となったトルコのユスフ・ディケチ選手が、自身の射撃スタイルにつき商標登録を申請したと報じられ、話題となっている。
ディケチ選手は、ゴーグルや耳当てなどの装備を着けず、Tシャツ姿で競技に参加。左手をポケットに突っ込んだまま射撃する独特のスタイルで見事銀メダルを獲得した。
報道によると、ディケチ選手側は、この射撃スタイルをトルコ当局に商標登録を申請。理由として、本人以外が無許可で商標登録しようとしていることに対抗するためだという。
商標といえば、商品名やサービス名などを思い浮かべるが、射撃スタイルのような人の動作(ポーズ)を商標登録するというのはどういうことなのだろうか。商標にくわしい舟橋和宏弁護士に聞いた。
●ポーズを具体的な画像として出願
──トルコの商標制度について教えてください。
トルコにおける商標は、手続要件を満たしたうえで、該当すれば登録できないという「絶対的拒絶理由」と異議申立がある場合に判断される「相対的拒絶理由」を満たさない場合に登録されることになります。
このうち、「絶対的拒絶理由」は日本の商標法とも似たものも規定されており、たとえば先行して登録・出願されている商標と類似するものは商標登録できない(日本の商標法4条1項11号参照)といったものも規定されています。
──ディケチ選手のポーズについてはどうでしょうか。そもそもポーズも商標登録可能なのでしょうか。
トルコ特許商標庁(TPTO:Turkish Patent and Trademark Office)のホームページを確認すると、今回の商標は、既に手続要件の審査は終えていますので、あとは実体審査として絶対的拒絶理由等が認められるかという審査がなされることになります。
商標というと会社・サービスなどのロゴマークなどを想起されるかもしれませんが、今回のようなポーズも具体的な画像として出願されており、前述の要件を満たすのであれば、登録される可能性は十分あるといえます。
なお、今回の商標が登録されたとしても、この射撃スタイルに似たものをイラストとして描くことに商標権の効力は及びません。あくまで商標(ブランドロゴなど)として、似た画像を使用することに商標権の効力が及ぶのみとなります。
●今回のような申請は「国内外を問わず多く見られる」
──今回の申請は本人以外が無許可で商標登録しようとしていることに対抗するためと報じられていますが、よくあることなのでしょうか。
自身に関係する商標を保護するべく商標出願するケースは、国内外を問わず多く見られます(ちなみに、今回の商標は登録できるすべての区分に対して出願しており、非常に広い範囲での登録を目指しています)。
実際、日本においても、ベストライセンス株式会社という企業が大量に商標登録出願をしていた、というニュースが話題になったことがあります。
同社の行動は、商標を登録してその使用権を独占し、当該商標を使用したい会社に対して、当該登録商標の買取りを求めるなどといったことを意図してのものと考えられており、「商標トロール」(自身のビジネスにおいて使用の意思がないにも関わらず、他社が使っている商標・使うであろう商標を取得する人や会社)といわれています。
特許庁もこういった商標トロールを問題視しており、過去にホームページ上で注意喚起を発したこともあります。
商標登録は、無関係の第三者がするケースのほか、所属タレントの芸名を事務所が行うといったケースもありますが、事務所退所等に関連して芸名等でトラブルになるケースもあります。
商標は、企業や個人のブランド等を保護するために登録することも推奨されますが、登録に際してトラブルになることもありますので、慎重な対応が必要な場合もあるところです。
【取材協力弁護士】
舟橋 和宏(ふなばし・かずひろ)弁護士
芸能・エンターテインメント案件を多く取り扱うレイ法律事務所に所属。同事務所においては、マンガ・アニメ・映像コンテンツ等の知的財産権(特に、著作権・商標権保護)を多く扱う。著書として「実務がわかるハンドブック 契約法務・トラブル対応の基本[国内契約書編](第一法規)」等。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:https://rei-law.com/
配信: 弁護士ドットコム