●「埼玉県警は注意喚起をなぜしなかったのか」
<警察は地域住民に対し、もっと効率的な注意喚起をなぜ行ってくれなかったのか。せめて「こういう人物が逃げている可能性がある」とお伝えしていただければ、私の家族も対応のしようがあったと思います>
そうした疑念を拭えず、埼玉県警の対応に問題がなかったかを問うために国家賠償請求訴訟を起こした。
疑問を抱いたのは加藤さんだけではなかった。事件現場周辺の住民らを中心に広がった署名活動では約4万筆が集まり、事件の検証を求める要望書が埼玉県知事に提出された。
しかし、残されたわずかな期待も裏切られている。
さいたま地裁は2022年4月、事件が起きる前日の正午時点で「埼玉県警は原告が主張する内容と方法による情報提供を行うべき法的義務を負っていたと認めることはできない」などとして加藤さんの訴えを棄却。東京高裁も2023年6月、原告の控訴を退けた。
「ひょっとしたら埼玉県警の内部に、今回の対応に疑問を感じていた捜査員もいたのではないでしょうか。それが組織になると不備や違法性は認めませんが、当時の対応を後悔し、声を上げられなかった捜査員はいたはずです」
加藤さんは裁判でそう訴えたが、警察組織の中から対応の誤りを告白する声は今も出てこない。
●国賠訴訟の上告審「裁判が開かれるのを待つ」
妹の春花さんはやんちゃな性格、姉の美咲さんは思いやりのある子だった。妻の美和子さんは何でも器用にこなす芯のある女性だった。
そんな愛する家族はこの世にもういない。なのに全てを奪った加害者はなぜか今も生きている。
「本当に悔しくて飲み込んで生きていくのがつらい。死刑になったとしても救われません。ただ、加害者が今生きていることに比べれば少しは救いになるかもしれません。本当はこの手で殺してやりたい」
加藤さんは上告しており、現在、最高裁の判断を待っている状態だ。最高裁では一度も弁論が開かれないまま上告が棄却されることも多い。
「これが最後になると思います。今は裁判がまた開かれるのを待つしかありません」
国家賠償請求訴訟の控訴審で、加藤さんは最後にこう訴えている。
「これ以上、遺族を見捨てないでください」
配信: 弁護士ドットコム