有村架純、“やせガマンの美学”を体現した別れ。目黒蓮がよけいに悲劇的に見えた変化とは?/『海のはじまり』

有村架純、“やせガマンの美学”を体現した別れ。目黒蓮がよけいに悲劇的に見えた変化とは?/『海のはじまり』

目黒蓮のフェイスライン、よけいに悲劇的に見える


一方、第9話では、やっぱり病み上がり(?)の目黒蓮に注目したい。たった一週空けただけで、顎(あご)のラインが変わった気がする。もともとしゅっとした面長フェイスがひとまわり細くなった気がしないでない。だからよけいに、悲劇的に見える。

お互い嫌いじゃないのに別れなくてはならない悲しみを全身で背負う夏。

女性が望まない妊娠をした場合、身も心も大きなダメージを被ることに対して、男性はそこまでのリスクを負うことがないと、ドラマのなかでも語られていた。第5話、「男だからサインしてお金出してやさしい言葉かけて、それで終わり。からだが傷つくこともないし。悪意はなかったんだろうけど。でもそういう意味なの。隠したってそういうことなの」とたったひとりで生んで育てた水季のことをゆき子(西田尚美)は慮(おもんばか)っていた。

望まない妊娠をした女性もつらいが、恋人や夫の浮気によって子供ができたため子供を生んだ女性を選ばれた女性もやりきれない。もうひとりの女性に子供ができたから別れてくれ、みたいな展開はこれまでドラマでは少なくなかった。その女性の悲しみに焦点が当たり、女性が共感するものが多かった。が、今回は男性に女性の悲しみがガンガンとぶつけられる。

Back numberの主題歌が流れるなか、滂沱(ぼうだ)の涙を流す夏は、女性だけの傷の痛みを千の矢達を浴びるように全身で引き受けているようである。全、傷ついた女性の痛みを全、女性を傷つけてしまった男性を代表して、目黒蓮がその身に受けている。まるで民の苦しみを背負うキリストのようであった。

夏は悪い人ではないし優しいけれど、弥生が海のお母さんになってくれたら楽だと思ってしまったのも事実で、その思いやりの欠けたことによって、弥生は去っていくのだ。

夏の背中は最終回のようでもあった

夏は海をひとり引き受ける決心をする。「一番大切にします。ほかの何よりも絶対優先します。がんばります」と言うと朱音(大竹しのぶ)は「当たり前でしょ。そうじゃないと困ります」と淡々。

夏は弥生にがんばれと言われたらから「がんばります」と言っているのかなと思うと、やっぱり甘えているような気もしないではない。

重責を背負い、スローモーションで歩く夏の背中は最終回のようでもあった。このまま、別れて、夏は海と生きていく。という未来に余白を残す最終回のパターン。でも、まだ3話ある。冷めたことを言えば、あと3話分も残っている(最近の連ドラには珍しく12話まであるそうだ)。

この別れは起承転結の転で、ショックな展開にざわつかせておいて、さらなる展開が待っているはず。元サヤに収まるのが無難なだけれど、弥生が似た者同士の津野や、さらなる年下男子・大和(木戸大聖)と新たなつきあいをはじめる可能性もないこともないかもしれない。

それにしても、こんなに海想いになってしまうと、海が成長して彼ができたら夏はどうなっちゃうのだろう。

<文/木俣冬>

【木俣冬】
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami

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