好感度の上昇が止まらないやす子の“新たな挑戦”に注目。「自分を殺した」演技が凄まじい

好感度の上昇が止まらないやす子の“新たな挑戦”に注目。「自分を殺した」演技が凄まじい

 2024年8月30日よりアニメ映画『きみの色』が劇場公開されている。同作は映画『聲の形』やテレビアニメ『平家物語』の山田尚子監督の最新作で、3人の少年少女がバンドを組む青春音楽映画だ。


 水彩画が動いているかのような美しいアニメ表現や、“秘密”を共有して“好き”が溢れ出すような優しい物語、劇場で映えるライブで披露されるかわいくてポップな楽曲など、その魅力は枚挙にいとまがない。

 さらに注目してほしいのは声の出演者で、特にここではやす子を推したい。彼女が声をあてているのは、主人公である「日暮トツ子」の親友3人、通称「森の三姉妹」のうちの1人の「百道さく」だ。

 他2人が悠木碧と寿美菜子という人気声優が担当していることもあって、ともすれば「浮いている」「本業声優との技量の差がはっきり表れてしまう」事態にもなりかねない。だが、やす子のパーソナリティーがキャラとシンクロしているだけでなく、やす子本人の演技への姿勢も含めて称賛したい、素晴らしいキャスティングおよび演技だった。

「自分を殺した」ことで“やす子”を感じさせなかった


 やす子が演じる百道さくは、端的にいえば癒し系のムードメーカー。ふくよかな体型からして愛らしいし、初登場時から「ウチ、次に遅刻したら奉仕活動なんよ」とぼやいて、ギリギリで間に合えばすぐさま手でポーズをとりつつ「セーフ!」と言ってのける様もほほえましい。

 はたまた、修学旅行を(仮病で)休む日暮トツ子に「机の中のお菓子も食べていいからね」と優しく声をかける様はなんだか「お母さん」のようだ。「シスターたちのモノマネ」をやり合って笑い合ったりするノリの良さもある。それぞれの要素を取り上げるだけでも、やす子のパブリックイメージにピッタリだとわかるだろう。

 しかし、実際の本編では「普段のお笑い芸人としてのやす子らしさ」は、むしろまったくと言っていいほど感じなかった。本当に、「百道さく」という本作独自のキャラクターがそこにいて、他の誰でもなかったのだ。

『月刊ニュータイプ』のインタビューで、やす子は「語尾を伸ばさない」ことを意識したそうで、「百道さくではなくやす子だと見られたいわけではありません。コントで役を演じるときはどこかやす子らしさが残っていてもいいですけど、今回は自分を殺すことに専念しました」という意図も語っている。

 やす子はやはり「はい~!」というギャグおよび、その語尾を伸ばす言い方におかしみがあり、だからこそのインパクトもあってお笑い芸人としての人気を得ているのだが、今回のように穏やかで繊細な作風のアニメ映画で、その言い方をしてしまうとノイズになってしまうどころか、作品全体の雰囲気を壊してしまいかねない。それを完全に避けた演技は、「あくまでも自分とは違うキャラクターとして演じきる」という姿勢も含めて、称賛せざるを得ない。

そもそもやす子はアニメへの愛情が深い


 そんなやす子は中高生時代にアニメをよく観ていたそうで、『きみの色』と同じ山田尚子監督のテレビアニメ『けいおん!』に影響されて高校時代にギターを始めたそうだ。バンドこそ組まなかったものの友達と『けいおん!!』(アニメ2期)の主題歌「GO! GO! MANIAC」を演奏したりしていたこともあったらしい。

 さらに、2024年6月に放送されたバラエティ番組『行列のできる法律相談所』では、宣材写真の「手のひらを正面に向けるポーズ」の元ネタが、テレビアニメ『日常』におけるインドネシア語のあいさつ「スラマッパギ」のポーズだったことを明かしており、その『日常』の原作マンガの作者である、あらゐけいいちの直筆イラストとメッセージが贈られたこともあった。

 やす子は間違いなくアニメが好き、いや愛情があるからこそ、前述したように「自分を殺す」と表現するほどに自分を抑えた、それでいて劇中の優しく穏やかな「百道さく」をこれ以上なく的確に演じることができたのだろう。

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