「おまえは醜い」「消えろ」…薬物依存の母に否定され続けた私が、自己肯定感を取り戻すまで/おおたわ史絵

「おまえは醜い」「消えろ」…薬物依存の母に否定され続けた私が、自己肯定感を取り戻すまで/おおたわ史絵

うつ病で半年寝たきりに。でも人は回復できる

――最近、「自己肯定感を上げる方法」的な本が多く出版されています。一方で、肯定感は子供のときに育まれるもので、大人になってから上げるのは難しいという意見もありますよね。

おおたわ:私は、肯定感は上げられると思います。人間にはレジリエンス(回復力)があると思うんです。

精神科の先生が言っていたのですが、うつ病になってから回復した人は、以前より人格がワンランクアップすることが多いと。これもレジリエンスの例ですよね。

私も、研修医の頃に、うつ状態で半年ぐらい寝たきりになった経験があります。当時、研修医の働く環境は劣悪で、休みも寝る時間もろくにありませんでした。必死に研修期間を乗り切った結果、体も精神も疲れきってしまって、決まっていた就職を辞退せざるを得なくなりました。

「死のうかな」くらいしか考えられなかった状態から半年ぐらい経って、また社会に戻って生きていかなくてはと思い始めたときに、このまま医師の世界に戻ったら、また自分を追い込んで破綻するのではないかという恐怖がありました。医師としての自分とは別に、もうひとつ何か自分を吐露できる場所が必要だと思って、自分の気持ちを文章に書き始めたんです。


自分がダメになってしまうという焦りが異様なパワーを生んだんでしょうね。書いた文章を見てもらえないかと、いろんな雑誌に載っている編集部の電話番号に電話をかけまくりました。担当の方が会ってくださって、面白いねと、「週刊朝日」にショートコラムが掲載されることになったんですよ。それが、本を書いたりメディアに出るようになったすべての始まりです。

布団をかぶって寝ていることしかできない最悪な半年間だったけれど、あれがあったから今があると思っています。うつ状態を経験してからのほうが、できることが増えたし、アプローチ方法が変わったし、自分に対する感覚が変わりましたね。

結局、人との関わりが肯定感を上げてくれる

おおたわ:わたしにとっては結婚も、肯定感を上げてくれた出来事のひとつです。この世の中でたった1人でも自分を認めてくれる人がいる、そんな風に思えた。

今でも覚えていますが、中学生の頃、友達と「ねえ、もしも神様がいて、たったひとつだけ願いを叶えてくれるって言ったら何を願う?」という話をしてたんですね。私は一瞬で、こう答えました。「心から安心できる場所がひとつ欲しい」って。

結婚によってやっと心から安心できる場所を得ることができたのかもしれません。


――肯定感が低い人はどうやって生きて行ったらいいでしょうか?やはり成功体験が大切ですか?

おおたわ:もちろん、肯定感の低さを埋めるための努力は無駄にならないと思います。勉強したり、一生懸命に仕事をするのも、すごく大事だと思う。そこで得たことは誰かに奪われることがないものだし、ひとつひとつのことが少しずつ自分の肯定感を押し上げてくれると思います。ただ、自分だけで自己肯定感を上げるのは限界があるかもしれない。

親が肯定感を育ててくれたら1番ありがたいけれど、色んな家庭環境があって、それがうまくいかないこともあるでしょう。親だけじゃなくて、その後の人生で知り合う人たちが、あなたのことを認めてくれたり、褒めてくれたり、好きになってくれる可能性があると思う。

私も中学・高校・大学で出会った友人や、夫や、仕事で関わった色んな人たちが、少しずつ自分の気持ちを押し上げてくれました。人との関わりをなるべく怖がらずに、行動していったらいいんじゃないかなと思います。

<取材・文/大日方理子 撮影/山田耕司(扶桑社)>

【おおたわ史絵】
東京女子医科大学卒業。大学病院、救命救急センター、地域開業医を経て現職。刑務所受刑者の診療にも携わる。また、情報番組などのコメンテーターとしても活躍。著書『女医の花道!』はベストセラーとなり、近著に『プリズン・ドクター』『母を捨てるということ』などがある

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