夫の盗撮を知った妻の絶望…「もう離婚したい」 それでも簡単には認められないワケ

夫の盗撮を知った妻の絶望…「もう離婚したい」 それでも簡単には認められないワケ

夫が盗撮をしているのを発見してしまったが、警察に通報すべきなのだろうか──。このような悩める妻からの相談が弁護士ドットコムに複数寄せられています。

相談を寄せた女性は、偶然、夫のスマホに電車内で盗撮したと思われる女性の画像が複数枚あるのを発見しました。相談者は夫を問い詰めようと考えましたが、「下着や胸元ではないから盗撮でない」「ネットで拾ったものだ」と言い訳されるのではないかと思い、躊躇しています。

また別の相談者は、夫が街中で盗撮していた証拠を発見し、「離婚したい」と考えています。警察に通報すべきかどうかも悩んでいるようです。

夫の盗撮行為を知った場合、妻に通報する義務はあるのでしょうか。また離婚を望む場合、離婚理由や慰謝料の理由になるのでしょうか。青木一愛弁護士に聞きました。

●必ずしも「盗撮=離婚事由」とはならない

──盗撮の証拠をみつけた妻に警察へ通報する義務はあるのでしょうか。

公務員については、その職務に際して犯罪があるものと考えた場合には告発する義務があります(刑事訴訟法239条2項)。

この条文を反対解釈すれば、公務員ではない私人は、たとえ犯罪があることを知っていたとしても告発する義務はないことになります。

なお、犯罪者をかくまう行為について、犯人蔵匿・隠避罪(刑法103条)というものがあります。

捜査機関に虚偽の事実を申告すれば隠避罪が成立するとされていますが、捜査機関に通報しなかったという不作為だけで隠避罪が成立するとは考え難いですし、仮にそうであったとしても、親族による犯罪に関する特例(刑法105条)で刑が免除されるものとされていますので、捜査機関が積極的に検挙するようなことはないと考えられます。

──夫による盗撮は、離婚事由になりますか。

離婚事由としては、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)にあたるか否かという問題になります。いわゆる“破綻主義”を示したものとされており、「当該婚姻関係が既に破綻していると言えるか否か」ということになります。

盗撮行為については2023年7月、新たに「性的姿態撮影等処罰法」が施行され、従来に比べると厳罰化されています。

また、特に女性からすれば、他人といえども同じ女性が被害に遭っていることから、そのような盗撮行為に嫌悪感を抱き、夫への信頼感等が一気に喪失し、これ以上婚姻を継続するのは困難である、と考えるのも無理はないと思います。

もっとも、「『その他』婚姻を継続し難い重大な事由」との規定からすると、民法770条1項1〜4号に列挙された事由と同じ程度の状況が求められていると考えられます。

盗撮行為が、たとえば第1号が定める「不貞行為」と同じ程度に婚姻を継続し難い重大な事由かと言われると、行為の悪質性に開きがあるように思われ、1回または少数の盗撮行為が発覚しただけで、「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるとの評価は、やや飛躍があると考えられます。

ただ、盗撮行為の回数・態様(長期間にわたる犯行、女性施設に侵入している等)、盗撮行為発覚後の言動(開き直っている、再発防止を誓約するも違反した等)等が積み重ねれば、「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたる可能性も高まります。

──慰謝料請求についてはどうでしょうか。

盗撮行為が原因で離婚事由が生じたのであれば、離婚原因を一方的に作出したのは夫の側ですので、慰謝料も請求し得ることになります。

【取材協力弁護士】
青木 一愛(あおき・かずちか)弁護士
福岡市、対馬市、横浜市の公設事務所を経て、綾瀬市初の公設事務所出身弁護士として稼働中。公設事務所在籍中に幅広い案件を担当する中でも特に離婚事件に注力。また、高齢者分野では行政機関から委嘱された委員等を歴任している。
事務所名:綾瀬かわせみ法律事務所
事務所URL:https://ayasekawasemi-law.com/

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「専門家を、もっと身近に」を掲げる弁護士ドットコムのニュースメディア。時事的な問題の報道のほか、男女トラブル、離婚、仕事、暮らしのトラブルについてわかりやすい弁護士による解説を掲載しています。
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