大手焼肉チェーン「牛角」が9月2日からスタートした女性限定の半額キャンペーン。SNSでは一部の男性から「女性差別では」という声が上がり、激しい議論になっています。
議論はさらに、「なぜ男性限定の半額キャンペーンはないのか」というテーマにまで発展。その理由として、店員や女性たちを中心に、男性のグループ客による「やんちゃ」や「イタズラ」では済まされない言動があると、SNSで報告されています。
その中でも注目を集めた投稿が、「異物混入」です。ある女性は、しゃぶしゃぶ専門店に友人と行ったところ、具材を取りに席を立った隙に、男性4人組が自分たちの鍋に何かを入れるのを見たといいます。
また別の女性は、レストランで友人とサラダバーに行くためにテーブルを離れた際、男性のグループがふざけながら女性たちの飲み物にゴミを入れたそうです。
いずれも女性たちは気づいて店側に伝え、店側は謝罪して、料理や飲み物を替えてもらうなどの対応をしてくれたとのことです。被害をうったえた女性の一人は、男性グループに店の前で待ち伏せされたりしたら怖いという恐怖が強く、警察に届け出るといったことを考えられなかったと投稿していました。
こうした料理や飲み物に異物を混入する行為は、罪に問われないのでしょうか。刑事事件に詳しい岡本裕明弁護士に聞きました。
●業務妨害罪や器物損壊罪に問われる可能性
——異物を混入する行為は、何かの罪に問われないのでしょうか。
まず、飲食店が被害者になる犯罪として、業務妨害の罪(刑法第233条、同法第234条)と軽犯罪法違反(法1条31号)の罪が考えられます。
例えば、2016年に男性がコンビニのおでんを指でつつき、その後、SNSで拡散した事件では、器物損壊と威力業務妨害の容疑で逮捕、書類送検されました(その後、不起訴処分)。
類似の事例として最も著名なものが、回転寿司店で立て続けに起きた事件ではないでしょうか。
2023年2月、20代男性が回転寿司店で、醤油さしに口をつけて飲んだかのようにみえる動画を撮影してSNSに投稿し、威力業務妨害罪などの罪に問われ、懲役3年執行猶予5年の判決を言い渡されました(2023年10月、名古屋地裁)。
業務妨害の罪が成立しない場合であっても、異物が混入されてしまえば、その料理を食べることはできなくなるでしょうから、少なくとも器物損壊の罪は成立するものと考えられます。
難しいのは、異物の入ったものを飲食した被害者に対する犯罪の成否です。しかし、異物を摂取したことで、食道に傷がついた場合などに限らず、性犯罪に及ぶ際に用いられるような睡眠薬等を摂取したことで、意識障害に陥ったような場合でも、傷害罪(刑法第204条)の成立はあり得ます。
——民事においては、どうでしょうか?
2023年1月、17歳(当時)の少年が回転寿司店で醤油差しをなめる動画が拡散し、少年は器物損壊の非行事実で家裁送致となっています。
少年は、回転寿司チェーンから約6700万円の賠償金の支払いを求める民事訴訟が提起されたことも社会的耳目を集めました(読売新聞の報道によれば、その後、調停が成立し終結)。
●もしも異物混入を見つけたら?
——もしも、客が異物を混入するところを発見したら、飲食店側はどう対応すべきでしょうか。
異物を混入する行為を見かけた場合の措置として、飲食店側としては直ちに異物の有無を確認した上で、混入経路を確認する必要があります。
まずは、飲食店側に落ち度があるかどうかを判断する必要がありますし、料金等の支払を免れるために、注文者が自分で混入させた可能性さえ否定できないからです。
注文した方の立場からは、異物が混入された可能性のある料理に手を付けるべきでないのは当然ですが、直ちに飲食店の責任者を呼び出し、対応を協議することが安全と思われます。混入経路の確認や、混入させた可能性のある者の退店を防ぐためにも、飲食店の協力は不可欠です。
【編集部より】 飲み物や料理に睡眠薬など薬物が入れられた疑いがある場合には、警察(性犯罪被害相談電話共通番号:#8103)や性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターへの相談をおすすめします。
【取材協力弁護士】
岡本 裕明(おかもと・ひろあき)弁護士
刑事事件及び労働事件を得意分野とし、外国人を被疑者・被告人とする事件を多く取り扱っている。多数の裁判員裁判も経験している一方、犯罪被害者の代理人として、被害者参加等も手掛ける。
事務所名:弁護士法人ダーウィン法律事務所
事務所URL:https://criminal.darwin-law.jp/
配信: 弁護士ドットコム