本作でもっとも美しいカメラワーク
第20週第97回。新潟から東京に戻ってきた寅子が、上司である等一郎に挨拶と報告にくる場面である。東京地方裁判所所長室の自席に座る等一郎に対して、寅子は最初少し距離を置いて立っている。
寅子がその位置から「共亜事件のあと、私桂場さんに法とは何かというお話をしたんです」と言い、等一郎が「あぁ、君が法律は綺麗な水。水源のようなものと言っていたな」と返す。
すると寅子が「嬉しい。覚えていてくださったんですね」と嬉しそうに近づいた瞬間、等一郎が右斜上へむにゅっと唇を変形させる。ヘの字でもハの字でもない、この新たなバリエーションの変形が寅子との再会で引き出されたことの感動たるや。
本題に入り、寅子への異動を命じた等一郎が、右手の甲を付き出して、しっしとジェスチャーする。このしっしが、しっし(1、2)、続いてしっしっし(1、2、3)と拍を打つ。何ともリズミカルで音楽的な一面をのぞかせる。
そのあと、カメラはふたりをサイドから捉え、退出する寅子を下手から上手にフォローする。このフォローするカメラワークが、等一郎のしっしの動きの延長みたいな滑らかさなのだが、本作でもっとも美しいカメラワークだなと感じた。
そろりと動かす手の運び方
同じような室内構図の名場面が他にもある。第22週第108回。後輩裁判官・秋山真理子(渡邉美穂)から妊娠したことを相談された寅子が、女性法曹の労働環境についての意見書を等一郎に提出する。それを読んだ等一郎は「君はいつになったら学ぶんだ」と一喝。でもそんなことで引き下がる寅子じゃない。
「では、別の道を探します」と毅然と答える寅子に対して「ん?」と声をもらした等一郎が、意見書を持った右手を少しの間静止する。ここでの構図もふたりはサイドから捉えられている。等一郎はその手をどうしたか。
そろりと動かすのだ。退室する寅子の方へそろり。そこからまた元の位置へそろり。何だこれ、もはや能楽師の舞の一部みたいな動きというか、運び方じゃないか。もしかして等一郎の無表情は、能面として機能していたのか? 松山のこのそろりには、さすがに恐れ入った(!)。
配信: 女子SPA!