東京福祉大の請求棄却、「金儲けのために留学生を大量に受け入れていた」は名誉毀損にあたらず 東京地裁

東京福祉大の請求棄却、「金儲けのために留学生を大量に受け入れていた」は名誉毀損にあたらず 東京地裁

「金儲けのために留学生を大量に受け入れていた」などの発言によって、大学の名誉が傷つけられたとして、東京福祉大を運営する学校法人が、元教員に対して1100万円の損害賠償の支払いと謝罪文の交付を求めた裁判で、東京地裁(髙木勝己裁判長)は9月9日、原告の請求を棄却した。

被告は、東京福祉大の元教授・田嶋清一氏。同大学で複数の留学生が所在不明となった問題に関連して、「研究生大量所在不明の原因として、巨額の金儲け主義が背景にある」とした手記をネット上で公開するなど、大学や元総長などを批判する発信をしていた。

田嶋氏の代理人をつとめる指宿昭一弁護士は9月13日、都内で開いた記者会見で、大学側の提訴について「正当な表現行為に対し裁判で威圧して黙らせようとする『スラップ訴訟』だった」と厳しく批判した。

●田嶋氏の表現行為は「いずれも真実で違法性なし」

判決によると、大学側が問題視したのは、田嶋氏が記者会見でおこなった発言や自身のホームページ上に掲載した記述など、11項目の表現行為。「(元総長の)恐怖政治の裏支配体制」「(元総長に対する)イエスマン以外、1年雇用の契約とさせられている」といった内容だ。

大学側は、田嶋氏の表現行為はいずれも、大学の社会的評価や信用を低下させるものであり、違法な名誉毀損にあたると主張。

これに対して田嶋氏は、一部の表現行為は大学の社会的評価を低下させるものではないとし、それ以外の表現行為は大学の社会的評価を低下させるものであるが、公共性・公益性・真実性または真実相当性が認められるとして、名誉毀損にはあたらないと反論していた。

東京地裁は、田嶋氏の表現行為はいずれも大学の社会的評価を低下させるものであると指摘。しかし、公共性・公益性があり、田嶋氏による事実の適示や論評の前提となる事実の重要部分は「いずれも真実であると認められる」として、違法性がなく名誉毀損にはあたらないと判断した。

判決では、元総長が学内の会議で「そしたら、ガバチョガバチョじゃん」など「いくら儲かるのか」という話を繰り返していたことや、何らの法的権限もなく幹部教職員への解職降格人事を次々と断行したり、意のままに操れる人物を重要なポストに就かせるなどの人事権を行使したことなども「(適示された事実の)その重要な部分について真実であると認められる」とされた。

「(元総長が)恐怖政治の裏支配体制を敷いた」という論評についても、その前提としている事実の重要な部分が真実であり、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものにあたるとは言えないとして、違法性がないと認定された。

●田嶋氏に届いた教員からの手紙「自由に発言ができない」

大学側が「名誉毀損だ」として訴えた裁判で、大学側の運営体制に対する田嶋氏の批判的な内容がかえって「真実である」と認定される事態となった。

「大学への批判を続けてきた田嶋先生は、大学を解雇されたのち、裁判で勝って職場復帰を果たしたが、授業を担当させてもらえないという扱いを受けました。授業を担当させるよう再び争った裁判では和解したものの、また担当させてもらえず、損害賠償請求訴訟を起こされたという経緯があります。

また、田嶋先生の名誉を毀損する事件もあって、それはこちらから大学と名誉毀損行為をおこなった教員を提訴し、その裁判は今も続いています。我々は最初から違法性がない、勝てる裁判だと思っていましたけど、裁判所がきちっとそういう認定をしてくれるのか、請求すべてを棄却してくれるのか、若干心配の部分もありましたが、東京地裁は正しい判断をしてくれました」(指宿弁護士)

田嶋氏は会見で、2016年3月に開かれた学内の研修会で大学側に批判的な発言をしたあと、「今の大学の雰囲気では、体制に対して自由に発言ができません。本当は先生と直接コンタクトを取りたいのですがそれもできません」と書かれた手紙が他の教員から自宅に届いたというエピソードを手紙の中身と紹介しながら明かした。

「当時の学内の抑圧された雰囲気およびそれに反発して一人ひとりの言い分が通るような大学にしたい。大学の民主化に夢を見ている教員の思いが表れている手紙だと思います。私はもう東京福祉大の教員ではありませんが、親しかった教職員や学生、院生もいますので、そういう人たちのためになんとかしたいとの思いで裁判を続けてきました」(田嶋氏)

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