東京・歌舞伎町から全国に広がっている「悪質ホスト」問題は、警察庁が風営法改正も視野に検討する事態となっている。その背景には、被害者支援団体が声を上げ、メディアが取り上げ、国会議員が動いたことがある。国会で中心となった一人が、立憲民主党の山井和則衆院議員だ。法改正はどうあるべきか。また、京都選出の男性議員がこの問題に取り組む理由は何なのか。山井議員に単独インタビューした。(ジャーナリスト・富岡悠希)
●臨時国会で風営法改正を成立させたい
──警察庁は風営法改正を視野に「悪質ホストクラブ対策検討会」を立ち上げ、7月末に初会合を開きました。
同じく立憲の塩村あやか参院議員と私が国会でこの問題を取り上げ始めたのは、昨年11月からです。当初、警察庁は法改正は必要ない、現行法で対応できるという立場でした。今、警察庁が法改正も視野に検討する動きを見せているのは、一歩前進です。
しかし、この間、被害は減るどころか、むしろ深刻化しています。警察庁には、ぜひこの秋に開かれる臨時国会で風営法の改正法案を提出してもらいたい。そして与野党一致で、成立させたい。
次の通常国会での法案審議となると、その成立は来年の5月か6月になってしまう。実際に施行されるのは来年夏になるので、ほぼ1年先です。あと1年も、問題を放置するのは許されません。
──警察庁の検討会では、売掛金などが「蓄積」する段階と、それを「取り立てる」段階に二分して議論をしています。山井議員が考えるポイントは?
入口での規制です。たとえば、カードローンには借りられる上限があります。上限があるのは、その金額以上を借りても返済ができないのがわかっているからです。
しかし、ホストクラブでは、18歳の女の子に売掛で300万円のシャンパンタワーをさせても、今の法律では合法です。売春や風俗で稼がないと払えないような金額を背負わせるのは、おかしい。
立憲は今年6月、「悪質ホストクラブ被害防止法案」として、風営法の一部改正案を提出しました。この法案は、ホストクラブ側に、客が不相当に高額の債務を負わないよう必要な措置を講じることを義務付けるものです。違反した場合には指示処分がなされ、これに従わなければ営業停止処分などにつながります。
ホストクラブにも当然、営業の自由があるし、ほかにもさまざまな権利を持っています。法の網をむやみにかけることはできません。そのため非常に抑制的な法案にしましたが、残念ながら審議されませんでした。
ともかく「歯止め」となる法律がほしい。立憲の法案以外のやり方でも、私はかまわないと考えています。
●男性議員だからと言って、腰が引けている場合ではない
──法改正の必要性に関する気持ちはわかりました。しかし、山井議員は京都選出の国会議員。京都府城陽市の後援会事務所から歌舞伎町は350キロメートル以上も離れているのに、なぜ、熱心にこの問題に取り組むのでしょうか?
2年少し前、AV新法関連で知り合った団体に誘われ、歌舞伎町の夜のパトロールに同行しました。そのとき初めて、性を売らざるを得ず路上に立っている多くの若い女性たちを見ました。もう、めちゃくちゃショックを受けました。しかし、当時は自分の担当分野だとは思えなかった。やはり、自分とは関係ない場所の問題だと考えてしまった。
その後、彼女たちの後ろに悪質ホストがいることがわかってきました。地元の新宿区や東京都が対策に乗り出すと期待しましたが、行政も議員もあまり動こうとしなかった。「国の問題だ」という姿勢で。たしかに票にならないし、一歩間違えたらバッシングを受ける可能性があることは、私もわかります。
──それでも、塩村議員などと共に国会で取り上げ始めました。
売春とかホストとかの話をするのは、永田町でもタブー視されています。外交、防衛、物価高対策、子育て支援、年金、環境と日本の課題は山積みです。そんなときに売春やホストを取り上げると、「山井、大丈夫? おかしいのじゃない」と白い目で見られかねない。
ディープな問題で、AV新法のときよりも、さらにハードルが高かった。ホストクラブ側は記者会見でトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)との断絶に言及しましたが、こうした反社会的勢力との絡みも出てきますから。
リスクがあるので、「いち山井」「いち塩村議員」が取り組むのではなく、立憲が組織的に取り組むようにしました。いろいろな議員が各自が出る委員会などで質問する。先に話を出した被害防止法案の筆頭提出者は、代表選にも出ている吉田晴美議員です。
──男性ジャーナリストである僕は、被害者インタビューなどで、ときに難しさを感じながらも、この問題の取材を続けています。山井議員はどうですか?
「女性議員が被害女性に相談されたから取り組むというのはわかるけど、山井さんは関係ないやん」。私もこう言われて、辛いときがあります。
それでも男性議員も混ざらないといけない。この問題は、国益にかかわる人権侵害の問題であり、女性対男性の戦いにしてはなりません。また、被害者が女性だから女性議員が取り組めばいいという意見は、一見正しそうだけど、その実、無責任です。
残念ながら、大量に来ている外国人観光客が日本人女性を買春して、その事実がネットを通じて世界に拡散しています。歌舞伎町発で、日本のイメージが損なわれつつある。そんなときに男性議員だからと言って、腰が引けている場合ではありません。
この問題では、よく「自己責任論」が取り沙汰されます。騙される女性が悪いと。そんなときに私はこんなふうに反論をします。真っ暗闇で歩いていたら、蓋が開いていたマンホールに落ちた。そのとき、不注意だから悪いと言いますか。それよりも、蓋を被せるのが大人や社会の責任じゃないのかと。そんな思いで、今後もこの問題に取り組んでいきます。
配信: 弁護士ドットコム