海の苗字変更快諾には、水季の教育が生きていた
その2:海(泉谷星奈)、わりとあっさり“月岡海”を選ぶ。
夏は海を引き取ることになったものの、煩雑(はんざつ)な事務手続きとそれに伴う海の感情に頭を悩ます。転校はしたくないとぐずる海。ママが死んでいろんなことが変わったのに学校まで変えなくてはいけないことがいやなのだ。ママの思い出いっぱいの南雲家に離れがたいし、学校も変えたくない。でも夏と一緒に暮らしたい。わがままのようだが海の気持ちもわかる気はする。
夏は海のために転職まで考え始める。良い親のようだけど、親になるって大変だなと思う。
海は居場所にはこだわるが、苗字を変えることはあっさり承諾する。夏は親の再婚に伴って苗字が変わっていやな思いをしたので、変えなくていいかと思っていたし、「大人の都合に合わせて変えなくちゃいけないのは違うんじゃないかって」と深刻に考えていたのに。
海の苗字変更快諾には、水季(古川琴音)の教育が生きていた。水季が、家族とおそろいにできるのが苗字、家族からもらえるのが名前と海に教えていたのだ。海のさんずいは「水」の意味で、水季の「水」と「ちょっとお揃い」と楽しさを分かち合っていた。そのため、海は苗字が変わっても水季と離れてしまう心配をしないで済む。そして、第1話で夏と出会ったとき、「さんずい」と海が強調していた理由もわかる。
水季の「季」から「夏」も季節の名前。夏は「すごいちょっとだけどおそろい」と言って「海」「水季」「夏」と書く。親子の名前が何か特別な想いを伴って並ぶ。
余談ながら、朝ドラこと連続テレビ小説「虎に翼」(NHK)では、猪爪家の男子にはみな「直」がついている。星家も「朋」がついている。子供に、親や親族の名前のいち文字を取り入れるのは戦国武将の時代からもよくあることだった。『海のはじまり』では同じ漢字ではなく、もう少しイマジネーションが豊かなおそろいであった。
いま、世間は「夫婦別姓」問題が熱い。『海のはじまり』では、選択的夫婦別姓ならぬ選択的親子別姓(同姓)問題。たしかに夫婦間だけでなく、子供の苗字問題も考える必要はあるだろう。
夏は名前の問題のほか、子育てに2000万~4000万円かかるとネットで調べて、憂い顔になる夏。老後2000万円問題のまえに子育て2000万円問題が横たわっている。夏がどんどん現実的になっていく。
会社の先輩・藤井博斗(中島歩)が「親がストレスでボロボロになったら子供に二次災害だよ?」と心配していたが、この藤井さんが一番、フラットな存在な気がする。
池松壮亮さんのやわらかい話し方だと緩和されるが文字だけだとキツイ
その3:津野くん(池松壮亮)のLINEの勢いがやばい。
特別編で津野くんがやさぐれたり執着したりするのも無理はないと思い直した視聴者も多かったと思うが、夏へLINEを続々と送ってくる勢いはやっぱり少し怖かった。「子育てなめてませんか」という言葉なんてなかなか辛辣(しんらつ)である。
その後、海が図書館に遊びに来て、図書館で海と話しているときは優しそうなのに。池松壮亮さんのやわらかい話し方だと緩和(かんわ)されるが、文字だけになるとキツく感じるようだ。
「子どものことで困るのが生きがいなんだから、あのひとたち」っていう言い方も文字だけだとキツイが、池松さんが話すと毒あるなあとは思うが、ギリギリで留まる。
配信: 女子SPA!