●更生支援施設にどこまで向き合うことができるか
弁護人からは、被告人が出所後に入所を検討している支援施設の責任者を証人請求した。一定の行動制限や携帯電話禁止などの措置を行いながら、2年ほどの集団生活で精神的な不安の解消を目指していくとする。
すでに被告人と面談も行っており、真面目な印象を抱いたという。その一方で、水泳に強く打ち込み過ぎた結果として、それ以外のことに目を向けにくい課題があるとも指摘した。
検察官からは、施設における更生の可能性を探る質問がなされた。証人の施設責任者は、複数の施設で150名ほど出所者などの受け入れを行っており、様々な罪種を抱えた支援希望者をサポートしてきた実績がある。
しかし、プログラムを満了する利用者は全体の3〜4割ほどだという。刑事施設とは異なり、強制的な措置などは行えないため、話し合いの末に退所する人や無断で退所してしまう人もいるという。本人がいかに治療に向き合う姿勢を保てるかが課題ということだろう。
●「被害者と社会が悪い」と思い込み
弁護人からの被告人質問では、これまでの人生を振り返るように多くの時間をかけて行われた。
物心つく前から始めた水泳は中学、高校と全国の上位に入賞した。その成績から大学へは学費免除で入学し、ここでも全国大会の上位入賞を果たすものの、部員と競技への取り組みの考えの違いから孤立。退部の末、大学を中退することとなる。ずっと取り組んできた水泳を失い、住んでいた寮で自殺を図ったものの途中で恐くなって未遂に終わった。
その後、スイミングスクールに正社員として就職し、児童の指導をするようになった。指導の勉強のため他のクラブに出向くなど熱心に活動した成果もあり、選手が軒並み大会でいい成績を残したものの、スクール側はその成果に関心がないのではと感じていた。
また、指導のための活動費用はときに家計から捻出するなどしていたこともあり、家族とは離婚し、子どもとの関わりも持てなくなった。
そんな中、上司だったAとの関係も良好とはいえない状況だったという。
責任者であるAは全体的な収支を見ていたが、被告人はそれを「経費のことばかり考えている」、「選手の応援も表面的」などと捉えていた。また、被告人自身は受けていないものの、他のスタッフへのハラスメントもあると感じていた。
そういった環境から、離島へ失踪し、そこで自殺を考えるも決行できなかったという。
退職や2023年事件を経てスクールとは距離を置いていたものの、元同僚や教え子の保護者からは相談を受けていた。それを聞き対応している内に、Aへの不満を募らせていった。
配信では、Aに対する恨みだけを伝えたいわけではなかった。「Aが許される社会が許せない」という思いで、ライブ中に密閉された車内でエンジンをかけた。外から差し込まれたホースから出てくる排気ガスにより苦しさを覚え意識を失ったが、無意識の中で車内換気のボタンを押していた。
逮捕当初も「Aと社会が悪い」という思いは続いたというが、警察の取り調べ中に親身に不満を聞いてくれたこと、面会に来た父親による差し入れられた書籍により、徐々に自身のことを見つめ直すようになった。
法廷では、二度と同じことをしてはならないと、施設への入所と治療を受ける意思を見せた。
配信: 弁護士ドットコム