同一労働同一賃金における「手当」と「福利厚生」等のポイント

同一労働同一賃金における「手当」と「福利厚生」等のポイント

同一労働同一賃金は、正規社員と非正規社員の不合理な「待遇差」の解消を目指す取り組みであり、短時間・有期雇用労働者であることを理由として差別的取扱いをすることは、パートタイム有期雇用労働法により禁止されています。

今回は、

同一労働同一賃金の実施により格差が解消される「手当」等とは
同一労働同一賃金で「手当」等で問題になる「格差」の具体例

についてわかりやすくご紹介していきます。

なお、派遣社員についても、同一労働同一賃金の対象ではあるものの、その他の対象である「パート」「有期労働者」とは若干の違いがあります。

まず、手当を含む賃金に関する待遇については、「派遣先均等・均衡方式」を採用したときのみ、派遣先の通常の労働者との間で待遇を比較します。賃金に関する待遇の格差の是正義務は、派遣会社にあります。

反対に、福利厚生や教育訓練、安全管理措置・給付などの賃金以外の待遇については、派遣元が派遣社員の待遇を均等・均衡に取り扱わなければならない比較対象が、「派遣先均等・均衡方式」を採用するか、「労使協定方式」を採用するかによって異なります。

「派遣先均等・均衡方式」の場合、派遣先で雇用される通常の従業員と比較しますが、「労使協定方式」の場合には、派遣会社で雇用される通常の従業員(派遣社員を含まない)と比較します。

賃金以外の待遇の格差の是正義務も、派遣会社が負担していますが、福利厚生施設や教育訓練などでは、派遣先にも一定の義務が課せられています。

また、派遣会社の内部において、パート・有期労働者に該当する派遣社員と派遣会社に雇用される通常の労働者との間の待遇も比較をする必要があります(労働者派遣事業関係業務取扱要領参照)。

派遣社員の方は、以上のことを念頭に、本記事をご覧ください。

1、同一労働同一賃金の対象となる「手当」

同一労働同一賃金の対象となる手当は、「同一労働同一賃金ガイドライン」(平成30年厚生労働省告示第430号)において、その目的性質を踏まえ、丁寧に整理されています。

本項では、同ガイドラインを参照し、問題となるケースとならないケースについて、具体例をあげてわかりやすく解説していきます。

(1)役職手当等

役職手当というのは、役職の内容に対して支給するものです。

同一の内容の役職には同一の、違いがあれば違いに応じた支給が行われなければなりません。

例えば、店長手当やリーダー手当は、正規・非正規で同一の責任範囲を持っているならば同一に支給すべきものです。

 (問題とならない例)

正社員の店長・リーダーと非正規社員の店長・リーダーがいる場合に、同一の内容(例えば、営業時間中の店舗の適切な運営)の役職についているならば、正社員非正規社員とも同額の役職手当を支給する。

ただし、所定労働時間に差がある場合には、所定労働時間の差に応じて金額を調整する。

 (問題となる例)

同一の内容の職務についている役職者で、正社員と非正規社員で役職手当の額に差がある。

(2)特殊作業手当(危険手当、運行手当等)

業務の危険度又は作業環境に応じて支給される特殊作業手当については、正社員・非正規員で同一の危険度又は作業環境の業務に従事するならば、同一の特殊作業手当を支給しなければなりません。

(3)特殊勤務手当(シフト手当等)

交替制勤務等(シフト制)等の勤務形態に応じて支給される特殊勤務手当は、同じ勤務形態ならば正社員・非正規社員とも同一の特殊勤務手当を支給しなければなりません。

 (問題とならない例その1)

早朝・深夜・休日などのシフトに入る場合に、正社員非正規社員とも同額の特殊勤務手当を支給する。

 (問題とならない例その2)

正社員については、シフトに入った場合だけ特殊勤務手当を支払うが、短時間労働者については、シフト勤務に入ることを前提で採用し、それに見合った基本給を設定しているので、特殊勤務手当は支給していない。

(例えば、労使協定方式の場合でも、シフト勤務を前提として派遣される労働者については、それに見合った基本給を設定する、といった考慮が必要でしょう。労使協定において十分に検討されるべきです。)

(4)精皆勤手当

正社員と業務内容が同一の非正規社員には、正社員と同一の精皆勤手当を支給しなければなりません。

(問題とならない例)

正社員については、欠勤があればマイナス査定を行い、一定の日数以上勤務すれば精皆勤手当を支給している。

非正規社員については、欠勤があってもマイナス査定は行わないので、その見合いの範囲で精皆勤手当を支給しない。

(5)時間外労働に対して支給される手当

所定労働時間を超えて時間外労働を行った場合には、正社員・非正規社員ともに同一の割増率などで時間外手当を支給しなければなりません。

例えば、正社員に対してだけ割増率を高くすることは許されません。

(6)深夜労働又は休日労働に対して支給される手当

これも割増率は正社員・非正規社員とも同一でなければいけません。

(問題とならない例)

正社員と同じ時間数・職務内容の短時間労働者に対し、深夜休日労働があった場合には同額の深夜休日手当を支給している。

(問題となる例)

短時間勤務社員について所定労働時間が短いことから、深夜休日労働の手当の単価を正社員よりも低くしている。

(7)通勤手当及び出張旅費

正社員も非正規社員も、交通費を負担して会社に通勤をしていることは変わりがないので、同一にすべきものです。

(問題とならない例その1)

本社採用の正社員については、交通費実費全額を通勤手当として支給しているが、各店舗採用の非正規社員については、店舗近隣からの通勤を前提にして通勤手当に上限額を設定している。

その後、ある非正規社員が本人の都合で通勤手当上限額では通うことができない場所に転居し、なお勤務を続けている。それでも、当該社員への通勤手当は規定の上限額内で支払うこととしている。

(問題とならない例その2)

週4日以上勤務の非正規社員には、月額定期券代に見合った通勤手当を払っているが、週3日以下の非正規社員には、日額の交通費実費を支給している。

(8)食事手当

労働時間の途中に食事のための休憩時間があるならば、正規非正規社員とも同額の食事手当を支給すべきです。

(問題とならない例)

正社員は勤務時間の途中で昼食休憩時間があるので食事手当を支給しているが、勤務時間の途中に昼食時間がない短時間勤務社員(例えば、午後2時~5時)には食事手当を支給していない。

(問題となる例)

同じような勤務時間の正社員と非正規社員で食事手当の額に差をつけ、正社員には高い額を支給している。

(9)単身赴任手当

正社員と同一の支給要件を満たす非正規社員には、正社員と同一の単身赴任手当を支給すべきです。

(10)地域手当

特定の地域で働く労働者に対する補償として支給される地域手当は正規非正規とも同様に支給すべきものとされています。

(問題とならない例)

正社員は全国転勤があるので、勤務地に応じた地域手当を支給しているが、非正規社員はそれぞれの地域で採用し、地域の特性に応じて基本給を設定し、例えば地域の物価水準なども考慮している。

そのため、非正規社員には地域手当は支給しない。

(問題となる例)

正社員非正規社員とも全国一律の基本給の体系で、両者とも転勤がある。にもかかわらず、正社員にのみ地域手当を支給し、非正規社員には支給しない。

なお、上記で記載したもの以外にも、会社によって様々な手当が設けられていることがあります。

会社によっては、正社員の基本給の変更は、賃金カーブ全体のベースアップに繋がるので、嫌がる傾向がありました。

そこで、趣旨目的のはっきりしない手当の新設をし、その場その場の労使交渉を切り抜けてきたということも多く見られるようです。

ある手当が同一労働同一賃金の規制の対象になるか否かを検討するためには、法的な解釈が必要になります。

もし、あなたの会社でも、正社員だけに趣旨の不明な手当が出ているのであれば、まずは会社に対し説明を求めてみてください。

それで納得いかなければ、公的機関(※)に相談したり、弁護士など専門家にアドバイスを求めてみましょう。

(※)公的機関の相談窓口については、次のパンフレットで紹介されています。

これらのパンフレットは、制度全体についてわかりやすく解説されているので、ぜひご活用ください。

①事業主の皆さま、パートタイム労働者・有期雇用労働者の皆さま パートタイム・有期雇用労働法が施行されます

②正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者の間の不合理な待遇差が禁止されます!

③派遣で働く皆さまへ

2、同一労働同一賃金の対象となる「福利厚生」一覧

次に、本項では、同一労働同一賃金の対象となる「福利厚生」についてみていきましょう。

(1)福利厚生施設

同一の事業所に勤務しているのならば、給食施設、休憩室及び更衣室などの福利厚生施設は、正社員も非正規社員も同一の利用を認めなければなりません(パートタイム有期雇用労働法12条)。

派遣社員の場合、派遣会社には、「派遣先均等・均衡方式」か「労使協定方式」に応じて、派遣先又は派遣会社が雇用する通常の労働者と均等・均衡した福利厚生施設の利用を認める義務がありますが、それだけでなく、派遣先にも、派遣社員に対して、福利厚生施設の利用を認める義務があります(労働者派遣法40条3項)。

なお、パートタイム有期雇用労働法施行規則5条、労働者派遣法施行規則32条の3では、福利厚生施設は、「給食施設」、「休憩室」及び「更衣室」に限定されています。

これらは、業務上必ず用いるものですから、差別待遇を禁止しているものです。

では、これら以外の福利厚生施設については、どうなるでしょうか。

後述(5)のとおり転勤者用社宅については特記されていますが、他の施設(保養所など)については、ガイドライン上明記がされていません。

ただし、派遣労働者に関しては、労働者派遣法40条4項において、派遣先は、「診療所等の施設であって現に当該派遣先に雇用される労働者が通常利用しているもの」について「利用に関する便宜の供与等必要な措置を講ずるように配慮しなければならない」とされています。

そして、この「診療所等の施設」の具体例としては、労働者派遣法47条の2に基づいて定められた「派遣先が講ずべき措置に関する指針」(平成11年労働省告示第138号、最終改正 平成30年厚生労働省告示第428号)で挙げられている「派遣先が設置・運営し、派遣先の労働者が通常利用している物品販売所、病院、診療所、浴場、理髪室、保育所、図書館、講堂、娯楽室、運動場、体育館、保養施設などの施設」が該当するとされています。

パート・有期労働者であっても、上記のような施設の利用が必要なことは多いでしょうし、合理的な理由がないのであれば、派遣労働者と同様、施設利用に関し、便宜の供与の措置を講ずる必要があるでしょう。

(2)慶弔休暇や健康診断の勤務免除・有給保障

正社員に慶弔休暇が付与されたり、健康診断受診の際に勤務時間中の受診を認め、その時間帯の給与を保障したりしていることは多いと思われます(「有給保障」といいます)。

非正規社員にも同様の取り扱いをしなければなりません。

(問題とならない例)

正社員と同様の出勤日が設定されている非正規社員には、慶弔休暇を付与しているが、週2日勤務の非正規社員には、勤務日の振替で対応している。勤務日の振替が困難な場合には慶弔休暇を付与している。

(3)病気休職

正社員に病気休職を認めている場合に、非正規の短時間労働者には正社員と同様の病気休職を認めなければなりません。

有期雇用労働者については、労働契約終了までの期間を踏まえて病気休職取得が認めなければなりません。

例えば、正社員に1年6ヶ月の病休を認めるが、有期が1年契約ならば残存期間を踏まえて病気休職を付与するということになります。

(4)法定外の休暇(慶弔休暇以外)

法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇(慶弔休暇を除く。)で、勤続期間に応じて正社員に取得を認めているものについては、非正規社員にも同様に付与されなければなりません。

有期契約社員で労働契約を更新している場合には、当初の労働契約の開始日から通算して勤続期間を評価することになります。

(問題とならない例)

正社員について勤続 10年で3日、20年で5日、30年で7日のリフレッシュ休暇を付与している場合、短時間労働者については所定労働時間に比例した日数でリフレッシュ休暇を付与している。

(5)転勤者用社宅

通常の労働者と同一の支給要件(例えば、転勤の有無、扶養家族の有無、住宅の賃貸又は収入の額)を満たす非正規社員には、正社員と同一の転勤者用社宅の利用を認めなければなりません。

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