アスベストをどのくらい吸うと病気になる?不安なときの確認事項

アスベストをどのくらい吸うと病気になる?不安なときの確認事項

一般的には、アスベストのばく露量が多く、ばく露期間が長いほど、アスベスト関連疾病の発症リスクは高まると言われていますが、いずれの疾病も潜伏期間が長いため、明確な医学的根拠がないのが実情です。

今回は、

アスベストをどのくらい吸うと健康被害が生じるのか
アスベストを吸ったことによって生じる健康被害の具体例
生活のなかでアスベストにばく露する危険性の有無
アスベスト関連疾病を発症したときの対処法
アスベスト関連疾病を発症した際に受けられる補償とその受け取り方法

などについて解説します。

1、アスベストをどのくらい吸うと発病する?

アスベスト(石綿)とは、天然の繊維状ケイ酸塩鉱物のことです。「せきめん・いしわた」とも呼ばれます。

断熱性・保温性・防音性・耐久性・気密性が高いため、ビル工事の現場や自動車のブレーキパッドの製造過程など幅広い分野で使用されていましたが、アスベストを吸入することによる高度な有害性(発がん性)が判明したため、現在では原則として使用・製造が禁止されています。

アスベストの吸引量と肺がん・中皮腫などの発病との間に相関関係があるのは間違いない事実ですが、その一方で、アスベストをどのくらい吸うと肺がんなどのアスベスト関連疾病が生じるかについては未だ不明点が多いのが実情です。

現在判明しているのは、アスベストを吸入した期間が長いほど、また吸入した量が多いほど、肺がんなどの発症リスク及び致死率が高まるということです。

たとえば、短期間かつ低濃度のアスベストにばく露した場合に、どのくらい発病リスクが高まるのかは分かっていません。

また、喫煙者がアスベストを吸入したときの危険性は健常者の約10倍に及ぶ、免疫力・抵抗力が低い子どもや幼児がアスベストを吸引すると大人よりも発症リスクが高まるなどと言われることもありますが、医学的根拠は不明です。

なお、業務上アスベストの使用が許可されている場合に、作業の安全性担保に必要なアスベストの空気中濃度基準として、以下のものが存在します。

工場などの空気中のアスベスト繊維:150本以下/空気1リットル
工場の敷地境界線における大気中のアスベスト繊維:10本以下/空気1リットル

(一般の大気中には、アスベスト繊維0.1~0.3本/空気1リットルが存在します)

アスベストはとても軽くて小さく細長い鉱物で、一度飛散すると長時間宙に浮いている性質があるため、上記のように、アスベストの濃度は一定量の気体中にアスベスト繊維が何本浮遊しているかで測定します。

2、アスベストを吸うことで発症する可能性がある主な病気

アスベストとの関連性が明らかとされている健康障害として、以下5つの病気が挙げられます。これらを総称して「アスベスト関連疾病」と称します。

石綿肺(アスベスト肺)
肺がん
中皮腫
びまん性胸膜肥厚
良性石綿胸水(石綿胸膜炎)

以下では、各アスベスト関連疾病の詳細及び潜伏期間について解説します。

(1)石綿肺

石綿肺(アスベスト肺)とは、肺繊維症(じん肺)のうち、アスベストのばく露によって引き起こされるもののことです。職業上10年以上アスベスト粉塵を吸入したときのように、中長期的かつ日常的に高濃度のアスベストにばく露したケースで発症すると言われています(目安として、累積石綿ばく露量が25000本)。

潜伏期間の目安は、アスベストにばく露してから医学的所見が現れるまで最低でも10年と言われています。

石綿肺は肺が繊維化することで呼吸機能が低下する病気であるため、発症すると、比較的早期の段階で、体を動かした際の息切れ・慢性的な咳や痰・胸や背中の痛みの自覚症状が見られます。

アスベストの使用・製造は1975年の一部使用禁止から2012年の全面禁止まで徐々に時間をかけて規制されてきました。

そのため、現在新規の石綿肺患者は減少傾向にあるとはいえ、過去にばく露した人が今後発症する危険は依然として残っているということになります。

(2)肺がん

肺がん(原発性肺がん)とは、その名の通り、肺にできるがんで、気管支・肺胞を覆う上皮部分に発生する悪性腫瘍のことです。

アスベスト以外にも、喫煙などの多くの原因で発症します。アスベストばく露が原因で肺がんを発症する場合の潜伏期間は、30年~40年です。

アスベストが原因で肺がんを発症すると、咳・痰・血痰などの初期症状を経て、多臓器などに転移するリスクが高まります。また、喫煙などの他の肺がん要因を抱えていると、発症や進行が早くなると言われています。

なお、アスベストばく露が肺がんを引き起こすメカニズムは正確には判明していません。

一般的には、アスベスト吸引によって肺細胞に石綿繊維が取り込まれて、物理的な刺激によってがん化するとされます。アスベストは鉱物であるため体内に取り込まれた後に吸収されず、そのまま肺などに残り続けてしまうのです。

(3)中皮腫

中皮腫とは、肺の周りの膜である胸膜・腹膜にできる悪性腫瘍のことで、心膜・精巣鞘膜にも発生することがあります。肺がんとは異なり、喫煙との関連性はありません。

中皮種を発症した場合、その原因はほぼアスベストであるといわれています。若い年齢でアスベストを吸ってしまったときの方が悪性中皮腫の発症リスクは高いです。

潜伏期間は20年以下の例もありますが非常に少なく、多くは40年~50年と非常に長いのが特徴です。統計的にも、潜伏期間40年頃の発症件数がもっとも多いとされています。

胸膜中皮腫の初期症状は、息切れ・胸痛・咳・発熱・体重減少・全身の倦怠感などが挙げられます。

ただし、症状がなく、胸部X線検査の際に偶然胸水貯留を発見されることもあります。

腹膜中皮腫の初期症状は、腹痛・腹部膨満感・腹水貯留などです。

(4)びまん性胸膜肥厚

びまん性胸膜肥厚とは、肺を覆っている臓側胸膜の慢性繊維性胸膜炎のことです。アスベストだけではなく、結核・放射線・開胸術などのさまざまな要因によって発生します。

潜伏期間はアスベストのばく露量によって異なり、高濃度アスベストばく露で30年、低濃度アスベストばく露で40年とされています。

また、アスベストのばく露期間によって発症可能性が異なり、職業上3年以上アスベストを吸った場合には、びまん性胸膜肥厚の発症リスクが高まるとされています。

びまん性胸膜肥厚の症状として、呼吸困難・反復性の胸痛・反復性の呼吸器感染が挙げられます。

後に挙げる良性石綿胸水の後遺症として生じたり、合併症として石綿肺を発症したりと、ほかのアスベスト関連疾患も関連してくる場合があります。

(5)良性石綿胸水

良性石綿胸水とは、様々な要因で胸腔内に体液が貯留する胸水という病気のうち、アスベスト吸入によって、胸腔内に胸膜炎が発生した際の滲出液がたまる病気のことです。

良性石綿胸水は、ほとんどの場合、胸水消滅により自然治癒するので自覚症状がないケースが多いです。

そのため、潜伏期間は不明ですが、まれに胸水が残存して被包化することによって呼吸機能障害の後遺症が出る場合があります。胸膜中皮種や、びまん性胸膜肥厚を発症することもあります。

参照:「石綿(アスベスト)関連疾患」独立行政法人環境再生保全機構HP

関連記事: