3、今後の暮らしの中でアスベストを吸う可能性はどれくらい?
アスベストの使用・製造は、紆余曲折を経て2012年(平成26年)に全面禁止されました。
そのため、現在、アスベストを工場や建設現場で吸入するといったことはほぼないと言えます。
しかし、生活環境や仕事によっては、今後の暮らしの中でアスベストを吸ってしまう可能性もゼロではありません。
ここからは、今後の暮らしの中でアスベストを吸入するリスクがある場面について解説します。
なお、アスベストというのは一般大気中や水道水中にも微量ながら含まれているものですが、これは健康被害を生じるほどのものではありません。
(1)アスベストを吸う可能性が高い職種
現在、アスベストの製造・輸入・使用・譲渡・提供は全面的に禁止されているので、業務中にアスベストを吸ってしまう機会はほとんどありません。
ただし、すでに使用済みで現存しているアスベストを除去する必要性は未だに残っているため、主に以下の仕事に従事している人は、今後の暮らしの中でアスベストを吸う可能性があると考えられます。
アスベストの無害化・飛散防止・調査に関する業務の従事者
アスベスト含有建築物の解体業者
アスベスト含有物の廃棄物処理業者
(2)家庭内でアスベストを吸うケース
日本で建設現場における高濃度吹き付けアスベストの使用が禁止されたのは1975年(昭和50年)10月からなので、それ以前に建築された建物に居住している場合には、住宅・マンションなどに使用されたアスベストを吸入するおそれがあります。
また、現在市場に出回っている家電製品にはアスベストは使用されていませんが、2005年(平成17年)頃以前に製造販売されていた家電製品のなかには、製造過程でアスベストが使用されたものが存在します。
たとえば、冷蔵庫の圧縮機内部のパッキンや電気スタンドのジョイント部、全自動洗濯機・ルームエアコン・除湿器・掃除機などの家電製品です。
もし、現在古い家電製品を使用しているのなら、家電に付着しているアスベストを吸ってしまう可能性を否定できません(参照:「家電製品における石綿(アスベスト)の使用状況について」日立HP)。
さらに、ご家族に(1)のようなアスベストばく露作業従事者がいらっしゃる場合には、作業服に付着したアスベストが家庭内にもちこまれたり、脱衣の際に石綿が付着したり、洗濯の際にアスベストが手に付着したりする危険性もあります。
(3)工場の近くに住んでいる場合
現在、廃棄物処理工場などの近くに住んでいても、それだけでアスベストを多量に吸うといったリスクはないと考えられます。
なぜなら、そういった工場は近隣住民や施設の安全性を維持する責任があるところ、アスベストを飛散させる可能性のある工場については、敷地との境界の大気中アスベスト繊維濃度について厳格な基準が設定されているからです。
したがって、工場の近くに住んでいることだけをもって、今後体に害がある濃度のアスベストを吸う可能性は小さいと言えるでしょう。
(4)近隣で解体工事をしている場合
近隣で解体工事を行っている場合には、空気中に飛散したアスベストを吸ってしまう可能性があります。
たとえば、解体中の隣の建物が築古物件の場合、この建物にはアスベストが使用されている可能性があります。
解体工事中は周辺にアスベストが飛散しないように尽力されますが、(3)に挙げた工場などと違い、解体工事を行う現場は必ずしも飛散防止策が十分になされているとは限りません。
また、石綿は目に見えない以上、飛散が十分に防止されているか確認することは困難です。
したがって、近隣の解体工事でアスベストが空中に舞うと、風向きなどの影響で自宅に石綿が侵入したり、解体工事現場の前を通過したときに石綿を吸ってしまったりする危険性が生じます。
(5)子どもが学校に通っている場合
かつては学校施設にもアスベストが使用されていましたが、その有害性が認識されてからは使用されていません。また、現在は建物に使用されているアスベストの除去が進められています。
令和元年度の文部科学省の発表によると、全国の学校施設等機関(123,766機関)のうち、平成30年10月の段階で「室内等に露出した保温材等(石綿含有の有無にかかわらない)」を有するのが25,132機関、「石綿を含有する煙突用断熱材」を有するのが9,837機関となっています(参照:「学校施設等における石綿含有保温材等の使用状況調査(特定調査)の結果について(通知)(令和元年8月30日)」)。
これは決して少ない数字とは言えませんが、この調査はおよそ2年おきに行われているところ、平成28年時点の数字よりも概ね5%ほど減少しているため、今後も少しずつ環境の改善が進められていくと思われます。
したがって、子どもが学校に通っている場合に、学校生活のなかでアスベストを吸うリスクはないとは言えませんが、比較的低いものと考えられます。
もし、子どものアスベストばく露リスクを懸念される場合、学校等が所在する自治体までアスベストの使用状況について問い合わせてみるとよいでしょう。
4、アスベストを吸った、または吸ったかもしれないと不安な人が注意すべき事
ここまで見てきたとおり、例外的な事情が存在しない限り、今後の生活でアスベストを吸う可能性は低いです。
その一方で、これまでの生活のなかでアスベストを吸入したおそれがあるなら、これから心身ともに健康的な生活を送るためにも以下のようなポイントを意識しておくべきでしょう。
(1)吸い込んだアスベストは完全には排出されない
体内に吸入された異物は、通常は痰のなかに混ざって排出されます。
これはアスベストを吸入した場合であっても同じです。
しかし、吸入されたアスベストの一部は排出されず体内に残ってしまう傾向にあります。アスベストは細長い形状をしているため、一度肺の中に入ってしまうと、痰などではなかなか体外に排出されないのです。
体内に残留したアスベスト繊維が肺胞内に到達してしまうと、破壊・分解されず肺胞内にとどまり続けて、アスベスト関連疾病の発症リスクを高めます。
(2)定期的な健康診断が重要
アスベストを吸入した可能性があるなら、定期的な健康診断が不可欠です。
上で見たように、アスベスト関連疾病は潜伏期間が長く、ある程度病気が進行するまで無症状のことが多いため、仮に自覚症状があったとしても日常的な不調と混同してしまいがちだからです。
したがって、アスベストばく露の不安を抱えていたり、息苦しさや慢性的な咳などの自覚症状があったりするのであれば、定期的に胸部レントゲン検査や肺がん検診、CT検査、喀たん細胞診、気管支鏡検査を行ってもらい、健康状態の管理意識を高めるのが重要だと考えられます。
(3)こんな症状が出たら要注意!すぐに受診しよう
過去にアスベストにばく露した可能性があり、以下の症状が出たときには、かかりつけ医や内科・呼吸器科を受診しましょう。
また、各自治体の保健所でもアスベスト関連の相談に対応してくれるので、専用窓口までお問い合わせください。
日常的な息切れ、激しい動悸
咳や痰の増加、色の変化が顕著(血痰など)
顔色が悪い、爪が紫色に変色している
顔、手足のむくみが酷い
急激な体重の増加
慢性的な微熱、風邪の症状が改善しない
寝転ぶと息苦しさを感じる
慢性的な食欲不振や体重の減少
身体のだるさが改善されない
参照:「アスベスト(石綿)に関するQ&A」」厚生労働省HP
配信: LEGAL MALL