3、秘密証書遺言なら本文もパソコンで作ってOK
自筆証書遺言では、財産目録はパソコンで作れるようになったものの、本文については全て自筆する必要があります。
本文もパソコンで作りたい場合は、秘密証書遺言を作るという方法があります。
秘密証書遺言はこれまであまり活用されていませんでしたが、パソコンで作成可能なので、どうしても手書きは面倒でパソコンで作成したいという方は積極的に活用を検討してみると良いでしょう。
(1)秘密証書遺言とは
秘密証書遺言とは、遺言者自身が自分で作成して封印した遺言書を公証役場に持参し、公証人と2人以上の証人に封をした状態で確認してもらう方法で作成する遺言書です。封印した遺言書の封筒に公証人と証人の署名押印をもらい、遺言者自身で保管します。遺言の内容を誰にも知られないようにしながら、公証人に遺言書の存在を証明してもらえます。
第970条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
引用元:民法
秘密証書遺言は自筆で作ることが法律上の要件とされていないため、パソコンで作ることもできます。
ただし、遺言書に署名押印することは必要です。
(2)秘密証書遺言の作成方法
秘密証書遺言を作成する際は、自筆証書遺言の場合とは異なる決まりがいくつかあるので、ご説明します。
①遺言書を作成する
まずは、自分で遺言書を作成します。遺言書の内容や形式を公証人や証人が確認することはないので、よく考えて作成する必要があります。
遺言書はパソコンで作ることができますが、自筆でもかまいませんし、誰かに代筆してもらうことも認められます。
自筆で書いておき、その他の自筆証書遺言の要件も満たしておけば、秘密証書遺言としての要件を満たさなかったり、発見した者が家庭裁判所での検認を経ずに開封してしまった場合でも、自筆証書遺言としての様式を満たしていれば、自筆証書遺言として有効となります。
②封筒に入れて封印する
秘密証書遺言は内容を他の人に知られないようにするため、遺言書を封筒に入れて封印をします。
封印をするときは、遺言書に押印した印鑑を使用する必要があります。別の印鑑で封印をしても秘密証書遺言としての要件を満たさず、無効となってしまうので注意が必要です。
③公証役場へ行く
封印した遺言書が準備できたら、公証役場へ遺言書を持参します。
公証役場での手続きには通常、予約が必要なので事前に問い合わせて予約をとりましょう。
秘密証書遺言を作成する際には、証人が2人必要です。公証役場で揃えてくれることもありますが、ご自身で証人を連れて行かねばならないことも多々あります。この点も事前に確認しておきましょう。
なお、証人は、次のいずれかに該当する人以外なら誰でもなることができます。
未成年者
推定相続人、受遺者、これらの人の配偶者や直系血族
公証人の配偶者、4親等内の親族、書記、使用人
④公証人が署名押印等をする
公証役場では、証人2名の前で、遺言書を封印した封筒ごと公証人に提出します。そして、自分の遺言書であることと住所・氏名を公証人に申述します。
申述を受けた公証人は、その証書を提出した日付と遺言者の申述を封筒に記載した後、署名押印します。
なお、公証役場ではおよそ1万1000円の手数料が必要です。
⑤遺言者と証人が署名押印する
公証人が必要な記載をした後、遺言者と証人も封筒に署名押印します。
以上で秘密証書遺言の作成手続きは終了です。遺言書は公証人から返還を受け、自分で保管することになります。
公証役場には遺言書の存在や遺言書の封筒に記載した情報は記録として残りますが、遺言書の内容はそもそも確認されないので記録されません。
(3)秘密証書遺言のデメリット
秘密証書遺言には、以下のようなデメリットもあります。作成前に確認しておきましょう。
①様式不備により無効になることがある
秘密証書遺言では自分で遺言書を作成する必要があります。後ほどご紹介する「公正証書遺言」と異なり、公証人は遺言書の作成にはかかわりません。
そのため、様式不備により遺言書自体が無効となってしまうケースが実は数多くあるのです。
特に、パソコンで遺言書を作成した場合は自筆証書遺言としての効力が認められる可能性もないので、慎重に遺言書を作成する必要があります。
②費用がかかる
秘密証書遺言を作成するためには、前記3(2)④でご説明したとおり1万1000円の手数料がかかります。
公正証書遺言の作成費用よりは安いですが、自筆証書遺言の場合は費用がかからないのと比べれば負担と言えます。
③手間がかかる
自宅内で全ての手続きが終了する自筆証書遺言とは異なり、秘密証書遺言の場合は証人2名に依頼した上で公証役場へ行って手続きを行う必要があります。
封筒に遺言書を入れて封印するという作業も必要です。
④紛失するおそれがある
自筆証書遺言についても同じですが、秘密証書遺言は基本的に自分で保管しなければならないので、紛失するおそれがあります。
公正証書遺言を作成するか、自筆証書遺言であっても法務局で保管する制度を利用すれば紛失するおそれはありません。
⑤家庭裁判所の検認が必要
遺言者のデメリットというよりは相続人にとってのデメリットですが、遺言者が亡くなった後に家庭裁判所で遺言書の検認を受けなければ、遺言書に沿った遺産分割を進めることができません。
これは、自筆証書遺言を自分で保管する場合も同じです。
公正証書遺言や法務局で保管する自筆証書遺言については、検認は不要です。
4、自筆証書遺言を作成する上での注意点
せっかく自筆証書遺言を作成しても、注意しておかなければ遺言書が無効となったり、有効でも相続人間のトラブルを招いてしまったりすることがあります。
ここでは、自筆証書遺言を作成する上での注意点をご説明します。
(1)パソコンを使えるのは財産目録のみ
前記1で詳しくご説明しましたが、パソコンを使えるのは財産目録だけです。
本文までパソコンで作ってしまうと、遺言書全体が無効となるのでくれぐれもご注意ください。
(2)守らなければならない様式がある
自筆証書として有効な遺言書を作成するためには、いくつか守らなければならない様式があります。
①書面に記載すること
「遺言書」という名のとおり、遺言内容は書面に記載する必要があります。録音や録画によるボイスメッセージやビデオレターには法律上の「遺言」としての効力は認められません。
その他には、遺言書の体裁に特に決まりはありません。
縦書き・横書きのどちらでもかまいませんし、用紙や筆記具の種類にも制限はありません。
ただ、手書きする本文には便せんを使い、筆記具としては消えないようにボールペン、万年筆、毛筆などを使うのが一般的です。
②署名押印をする
署名押印がなければ、遺言書は無効となります。
遺言書の全てを自筆で作成した場合、署名押印は1箇所でかまいませんが、パソコンで作成した財産目録には1ページごとに署名押印が必要なので忘れないようにしましょう。
氏名はフルネームで本名を記載します。相続手続きをスムーズに行えるように、戸籍に登録されているとおりの字体で姓名を記載ししょう。
押印は実印を使用するのが望ましいですが、法律上は認印でも有効です。
③日付を記載する
遺言書には作成した日付を記入する必要があります。
何年何月何日に遺言書を作成したのかを特定できるように記載しなければなりません。西暦でも和暦でも構いませんが、特定できる日付を記載する必要があります。「○年○月吉日」という書き方では日付が特定できないため無効となります。
なお、日付を記載するのは本文だけでかまいません。財産目録には日付は不要です。
(3)遺留分を知っておく
遺言書に書く内容に制限はありませんが、遺産分割方法を指定する際は各相続人に配慮した内容にしておくべきです。著しく不公平な内容であれば、相続トラブルを招くおそれが高くなります。
特に遺留分を侵害しないように注意が必要です。遺留分とは、民法が兄弟姉妹以外の法定相続人に保障する最低限の相続割合のことです。これは遺言によっても奪うことはできません。遺言書の内容が遺留分を侵害している場合には、侵害された相続人は相続等により財産を得た相続人に対して遺留分侵害額請求を行うことができます。
各相続人の遺留分は、法定相続分の2分の1ですが、相続人が直系尊属(両親や祖父母)のみの場合は3分の1です。
(4)相続人の相続税を考慮する
遺産総額が基礎控除額を超える場合は、相続税がかかります。基礎控除額は、次の計算式によって算出します。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
相続税がかかりそうな場合は、相続税の負担も考慮して遺産分割方法を検討したいところです。
預貯金や不動産を取得した相続人には相続税がかかるのに、生命保険金を取得した相続人には相続税がかからないというような形で不公平が生じる場合もあります。
相続税についてわからないことがある場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。
(5)認知や相続廃除をする場合は必ず遺言執行者を選定する
遺言では、財産の承継についてだけでなく、認知や相続廃除を行うこともできます。
認知とは、妻以外の女性との間に生まれた子について、法律上の父子関係を認める手続きです。
相続廃除とは、被相続人を虐待するなど著しい非行のある推定相続人の相続権を剥奪する手続きのことです。
これらの認知や相続廃除は被相続人の生前にはしづらいとして、遺言で行う被相続人もいます。
認知や相続廃除を遺言で行う場合は、実際に手続きを行うのは遺言執行者であるため、遺言であらかじめ遺言執行者を指定しておきましょう。
遺言執行者は被相続人の死後に相続人が家庭裁判所に対して選任を申し立てることもできますが、スムーズに手続きを進めてもらうためには遺言者が遺言書で遺言執行者を指定したおいたほうがよいでしょう。
配信: LEGAL MALL