夫が不倫した場合に離婚と慰謝料の支払いを約束する契約書を作りたい──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者は、婚姻中に夫に不倫された経験があり、子どものことを考えて離婚を思いとどまったものの、夫が再び不倫する“万が一”に備えたいと考えているようです。具体的には、夫がまた不倫した場合は「離婚し、慰謝料2000万円を支払う」という内容の契約書を作成したいそうです。
不倫の代償で「慰謝料2000万円」は思い切った額ですが、このような契約書が夫との間で締結できたとしても、法的に問題ないのでしょうか。新保英毅弁護士に聞きました。
●「慰謝料2000万円」は相場を大幅超過→過大部分は無効の可能性
──不倫された場合に備えた契約というのは可能なのでしょうか。
将来不倫をされた場合の慰謝料(損害賠償)の金額をあらかじめ定めておくことは、損害賠償の予定(民法420条)として法的に有効です。
ただし、当事者間で合意すればどのような内容であっても有効というわけではなく、公序良俗に違反する合意は無効となります(民法90条)。
──「配偶者が不倫した場合、慰謝料2000万円を支払う」という契約は有効ですか。
不倫により離婚に至った場合の慰謝料の相場は100万~200万円、悪質な場合でも300万円程度に留まるのが通常です。
今回のケースで定めようとしている「慰謝料2000万円」というのは、裁判上認められる通常の慰謝料額の相場と比べ著しく過大であるとして無効となる可能性があります。
もっとも、合意全体が無効となるわけではなく、公序良俗に反する範囲、すなわち著しく過大と判断された部分に限定して無効となり、そうでない部分は有効です。
具体的には、おおむね300万円を超える部分は著しく過大と評価されて無効となる可能性がありますが、どの範囲で無効となるかは、不倫の態様や経過、当事者の保有資産状況、その他の事情によっても判断が変わってくるものと思われます。
──「配偶者が不倫した場合は離婚する」という点はどうでしょうか。
不倫した場合は「離婚する」という部分については、そもそも民法が不貞行為を離婚事由と定めていることから(民法770条1項1号)、今回の契約の有無にかかわらず、裁判上離婚が認められやすいです。契約書で定めたかどうかより、不倫した事実の有無が焦点になるのではないでしょうか。
なお、結婚前に夫婦間の財産帰属や離婚時の慰謝料等を取り決める婚前契約というものがあります。
今回のような結婚後の合意と異なり、婚姻中の夫婦間の契約はいつでも取り消し可能と定められている関係で(民法754条)、婚前契約の方が法的拘束力が強いといえそうです。
ただし、婚姻関係破綻後は民法754条による取り消しは制限されると考えられており、今回のケースでも、少なくとも将来の不貞発覚後に夫側から一方的に取り消すということは認められないでしょう。
いずれにせよ、今回のような契約書の作成は、離婚裁判で通常認められる慰謝料以上の金額の獲得を目的にするというよりは、夫に対し将来の不倫を心理的に抑止することを主眼におかれた方がいいでしょう。
【取材協力弁護士】
新保 英毅(しんぼ・ひでたか)弁護士
2004年弁護士登録。相続・遺産分割事件、中小企業の法務の案件を多く取り扱っている。モットーは「依頼者ひとりひとりに適したオーダーメイドのサービス」。
事務所名:新保法律事務所
事務所URL:http://shinbo-law.com/
配信: 弁護士ドットコム