退職理由に「一身上の都合」はダメ? 弁護士が解説する「不利にならない退職届の書き方」

退職理由に「一身上の都合」はダメ? 弁護士が解説する「不利にならない退職届の書き方」

退職理由に「一身上の都合と書くのはNG」と言われたという投稿が最近、Xで注目を集めました。弁護士ドットコムにも、退職理由の書き方について、さまざまな質問が寄せられています。

例えば、「同僚からの嫌がらせで退職しますと書きたいです」「年収が減ったためと書きたかったが、会社に『一身上の都合』とされた」といった悩みです。

職場を退職する際、退職理由の書き方によって、働いていた人が不利益を被ることはあるのでしょうか。「正しい退職届」の書き方とは。高橋寛弁護士に聞きました。

●退職届に「退職理由」を書く義務はない

——退職理由を「一身上の都合」と書くケースが多いかと思いますが、退職理由を詳細に書く義務はありますか。

退職届を会社に提出する際に、退職理由を書く義務はありません。

まず前提として、労働者からの申し出に基づいて退職をする場合、労働者からの一方的な意思表示で辞める場合と労働者と使用者との合意に基づいて辞める場合があります。

会社を辞めたいというケースは、多くの場合、会社の了承が得られなくても辞めたいという状況だと思いますので、以下では労働者からの一方的な意思表示で辞める場合について説明します。

民法627条1項において、期間の定めのない雇用契約の場合、労働者はいつでも雇用の解約(退職)の申入れをすることができ、退職の申入れから2週間の経過によって雇用は終了することが定められています(民法627条は雇用解約の申入れを「各当事者」ができると定めていますが、労働契約法16条により使用者は自由に解雇をすることができないため、民法627条1項は実質的に労働者のみを対象とした条文となっています)。

つまり、期間の定めのない雇用契約の場合、いつでも、理由を問わず退職することができるため、会社に退職理由を説明する必要はありません。

また、期間の定めのある契約であっても、契約期間が1年を超える契約の場合、労働基準法137条により、労働契約の開始から1年を経過した後はいつでも、理由を問わず退職することができます(一部例外があります)。この場合も会社に退職理由を説明する必要はありません。

1年以下の期間の定めがある雇用契約の場合、民法628条により、契約期間途中で労働者の一方的な意思表示による退職ができるのは「やむを得ない理由」がある場合に限られますが、使用者に理由を説明しないと退職できないと定められているわけではありません。

このように、法律上、退職の理由を説明する義務は定められていません。ただし、雇用契約が1年以下の期間の定めのある場合については、労働者の一方的な意思表示で退職をするには「やむを得ない事由」があることを主張・立証する必要がありますので、退職の理由を説明するか、会社と合意の上で退職できるように話し合いをした方がよいでしょう。

●理由に「パワハラを受けたから」と書いても不利にならない?

——退職理由に「パワハラを受けたから」など、会社に不利なことを書いた場合、書いた人が不利になる可能性はありますか。

会社に不利なことを退職理由に書いたことで、辞める人が不利になるということは基本的にないと思います。

ただし、不適切なことではありますが、会社に不利なことを退職理由に書いたことで会社が退職に関連する手続きに非協力的になる可能性はあります。

万が一、そのようなことがあった場合には、それぞれの手続きに応じてハローワークや健康保険組合などに相談するのが良いでしょう。

——このほか、退職届の書き方で不利にならないよう、注意する点があったら教えてください。

先程お伝えした通り、労働者からの申し出に基づいて退職をする場合、労働者からの一方的な意思表示で辞めるパターンと労働者と使用者との合意に基づいて辞めるパターンがあります。

そして、労働者からの退職の申し出については、使用者の同意を得なくても辞めるという強い意思を有している場合でない限り、一方的な退職の意思表示ではなく合意退職の申込に当たるとしている裁判例が複数あります(広島地判昭和60年4月25日労判487号84頁、大阪地判平成10年7月17日労判750号79頁等)。

こうした事例からすると、会社に提出した書類が一方的な退職の意思表示ではなく合意退職の申し出と判断された場合、会社の了承がないため退職が成立していないとされてしまう可能性があります。

そのため、会社の意向に関わらず辞めるという考えなのであれば、退職届を書く際は「退職願」というタイトルにしたり「退職を願い出ます」といったような、会社の了承を願い出ていると捉えられかねない表現を避けて「退職届」といった記載にしたり「退職いたします」といった記載を用いて、退職の意思を明確に表示したほうが良いでしょう。

【取材協力弁護士】
高橋 寛(たかはし・かん)弁護士
2017年弁護士登録(東京弁護士会)。日本労働弁護団、自由法曹団、東京弁護士会労働法制特別委員会等に所属。労働者側専門で多くの労働事件を担当している。
事務所名:旬報法律事務所
事務所URL:http://junpo.org/

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「専門家を、もっと身近に」を掲げる弁護士ドットコムのニュースメディア。時事的な問題の報道のほか、男女トラブル、離婚、仕事、暮らしのトラブルについてわかりやすい弁護士による解説を掲載しています。
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