●刑事罰設定すれば一定の効果あるが「被害者の救済にはならない」
──制度の改正に向けた動きもあるようです。どのような方向に進むのが望ましいのでしょうか。
公益通報者保護法の改正は、これまでも、経済界の反発が強く、法律の附則に規定された見直し期間を経過してもいつまでも法改正がなされなかった上、ようやくなされた2020年改正でも当たり障りのない改正しかできていませんでした。
公益通報者を保護することは、通報者個人のみならず、法の支配を及ぼすという点で社会全体の利益に資することであり、長期的にみればそれぞれの組織の利益にもなることは明らかです。
しかし、現行の公益通報者保護法は、あくまで事後的な救済を定めるのみであり、実際に不利益な取扱がなされた場合でも、通報者がその有効性を争わない限りは救済されません。
体制整備義務違反に関しては、行政が指導・勧告をおこなうことができることとされていますが、個別の不利益取扱に関しては、そのような制度も設けられていません。
そのためか、通報者が争ってくる可能性の大きさや通報を抑圧することによる経営者の利益などを衡量し、意図的に通報者に対して不利益取扱をおこなって見せしめにしたとしか思えないような事案もみられます。
通報者に対する不利益取扱について行政処分や刑事罰を設けるなどの抑止策は、被害者を一定程度減らす効果はあると考えられますが、現実問題として、全ての不利益取扱について調査や処罰がなされることはまず考えられず、抑止効果には限界がありますし、何より、実際に被害を受けてしまった通報者にとっては救済にならないという問題があります。それでは、結局は正しいことをした者が報われないことになり、公益通報が十分活用されるようにはならないと思われます。
法改正がなされるのであれば、通報者の側が不利益取扱を争った場合の金銭的・精神的負担や立証上の負担についての手当をしていくことが求められます。
いずれにせよ、今回のケースを機に、公益通報制度がより実効性のある制度になっていくことを期待します。
【取材協力弁護士】
大森 景一(おおもり・けいいち)弁護士
平成17年弁護士登録。大阪弁護士会所属。同会公益通報者支援委員会委員など。 一般民事事件・刑事事件を広く取り扱うほか、内部通報制度の構築・運用などのコンプライアンス分野に力を入れ、内部通報の外部窓口なども担当している。著書に『逐条解説公益通報者保護法』(共著)など。
事務所名:大森総合法律事務所
事務所URL:https://omori-law.com
配信: 弁護士ドットコム