「思想の偏り」の危険性とは?
――それは単純に勉強をがんばれば、教養が身について、人間としても成長するというような話ではなく?
堀江 はい。もちろんそういう側面も期待されますが、たとえば、若き日には歴史と生物学の両方に関心をお示しになられていた昭和天皇が、生物学の研究を主として行うようになったのは、皇太子時代に「最後の元老」こと西園寺公望たち側近のアドバイスを受けたからだといわれています。
天皇が日本の皇室が2つに分裂していた南北朝時代――14世紀半ばから14世紀末までの約50年間の歴史について、あるいは20世紀初頭までに欧米社会で頻発した革命のあれこれについてなどに詳しくなりすぎることは好ましくない……。
つまり「思想の偏り」が生まれることを危惧されて、そういう危険性が少ないと考えられた生物学が周囲から勧められたという説があるのです。昭和天皇ご自身は、1976年(昭和51年)11月の記者会見で「歴史を学ぶ途中で生物学に興味を持つようになりました」とおっしゃっています。
――今上陛下(現在の天皇陛下)は、水運というテーマを歴史学を通じ、ご研究ですよね。ご留学先のオックスフォード大でもロンドン・テムズ川の水運の歴史を学ばれたそうです。
堀江 そもそも天皇が、どこかの大学に学者として所属し、その給金で生活するという意味での職業学者になる可能性はないのですけれど、ご意思さえあれば一生涯をかけ、専門的に何かの学問を続けられるようになったのは、近代以降の天皇では、実は昭和天皇の代からなんですね。社会が安定していたからともいえるでしょうか。
同時に、今上陛下がこれまで明治以降の天皇の学問としてはタブーのように扱われてきた歴史学を専門的に学べたのも、水運という「社会性」あるいは「公共性」の強いテーマをご選択だったからかもしれません。
というか、自然科学とか歴史学とかのジャンルを超え、最終的に研究成果に「社会性」とか「公共性」があるかどうかこそを、天皇家の方々は強く意識なさっているような気がしているのです。
――次回に続きます。
配信: サイゾーウーマン
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