歯周病治療では「治療後に歯がしみる」「治療を続けているのに症状が改善しない」などのトラブルにどう対処したらいいのか、お悩みの方も実は少なくありません。そこで、歯周病治療でよくあるトラブルの原因や具体的な対策について、歯周病治療専門クリニックSPIDOの辻先生に解説してもらいました。
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監修歯科医師:
辻 翔太(歯周病治療専門クリニックSPIDO)
大阪大学歯学部卒業。東京都内歯科医院での勤務後、コロンビア大学歯学部歯周病科に進学。歯周病、インプラント治療について専門的な治療に従事すると共に、コロンビア大学メディカルセンターで歯学部学生に対して、歯科教育も同時に行う。米国歯科医師免許(ワシントン州)を取得後、大阪梅田に歯周病治療専門クリニック SPIDO(スピード)を開院。開院後も大阪大学歯学部歯周病科で研究・教育を続けながら、各種学会や講演会、歯科雑誌など幅広く活動している。日米両方の歯科医師免許を保有。
【トラブルパターン①】歯周病治療後に「歯ぐきが下がる」「歯がしみる」その原因と対策について
編集部
歯周病治療では、治療後に「歯ぐきが下がる」「歯がしみる」という話をよく耳にします。この原因について教えてください。
辻先生
歯周病治療後に歯ぐきが下がるのは、治療の過程で起こる自然な変化といえます。健康な状態では、一定の厚みのある骨の上に歯ぐきが覆い被さっているのが正常です。歯周病が進行すると、その内側で徐々に骨が失われていきますが、その段階ではまだ歯ぐきの位置に変化はありません。しかし、治療でクリーニングや歯石除去を行うと、歯ぐきが本来あるべき位置、つまり残っている骨の位置に戻っていきます。これが、治療後に「歯ぐきが下がった」と感じる要因です。
編集部
そうすると、歯周病が進行した場合、治療後に歯ぐきが下がってしまうのは避けられないということなのでしょうか。
辻先生
はい。歯周病と診断された場合に限っていえば、治療後に歯ぐきが下がるのはむしろ「健康な状態に近づいた」といえます。歯周病治療の目的は、歯と歯ぐきの間にできた「歯周ポケット」をなくしていくことです。したがって、歯ぐきが下がったということは歯周ポケットが浅くなった、つまり改善がみられたと判断できます。
編集部
では、治療後に「歯がしみる」という症状はいかがでしょうか? こちらの現象についても教えてください。
辻先生
治療後に歯がしみるのは、先ほどの「歯ぐきが下がる」ことと密接に関係しています。治療によって歯ぐきが下がると、今まで見えなかった歯の根っこの一部が露出します。この根の部分には、表面を保護するエナメル質が存在しないため、外部から刺激が加わるとしみたり痛みを感じたりするようになります。
編集部
治療後に歯がしみる場合、何か対処法などはあるのでしょうか?
辻先生
治療後に歯がしみる場合、まずは露出した根っこの部分に適切に歯ブラシを当てることで、症状は徐々に落ち着いていきます。ただ、どの方法が適切かは歯医者さんでしか判断できないので、必ず歯医者さんで適切なブラッシング指導を受けて実践するようにしてください。そのほかに、しみ止めの薬を塗布して症状を和らげる方法があります。また、露出してしまった根っこの表面を外科的に歯ぐきに被覆する治療もできる場合があります。
【トラブルパターン②】歯周病治療が「終わらない(長引く)」・治療をしても「治らない」原因と対策
編集部
歯周病治療では「治療が長い・終わらない」と感じる患者さんも多いようですが、その原因として考えられることを教えてください。
辻先生
1つに保険診療のルールが挙げられます。歯周病治療で保険を適用する場合、治療は数回に分けて行う必要があります。これは歯周病の進行程度に関わらず、すべての人が同じ治療ステップを踏まなければなりません。例えば、歯周病が重度の患者さんでも、まずは軽度の症状に対する治療を終えないと、次のステップの「歯周外科治療」には進めないわけです。
編集部
つまり、症状が重い人でも軽症の人と同じ過程をふまなければならないということですね。
辻先生
その通りです。症状が重いからといって、軽症の人向けの治療をスキップして、いきなり重症の人向けの治療に進むことが保険診療ではできません。これが、治療期間が長く感じてしまう要因の1つになっています。
編集部
歯周病治療ではほかにも、「治療を続けているのに治らない」という声も聞かれます。考えられる原因を教えてください。
辻先生
いくつかの原因がありますが、1つは適切な治療が行われていない可能性が考えられます。歯周病は歯を支える骨が溶けてなくなるのが病気の本質ですから、ある程度進行してしまうと骨に対する治療、具体的には「歯周外科治療」が必要となります。外科治療をしないまま、ただ表面的な清掃を続けていても根本的な改善にはつながらないため注意が必要です。
編集部
そのほかに、考えられる原因はありますか?
辻先生
もう1つ重要なのは、歯周病になった原因が的確に診断されていないケースです。例えばむし歯の場合、むし歯で空いた穴を埋めるのはあくまで対症療法に過ぎません。なぜ、その歯に穴が空いたのか、その原因を特定して取り除かなければ、また同じような問題が起こってしまいます。歯周病も同様に、患者さんのお口の中にある複数の原因を特定し、それぞれに対応した治療を行う必要があります。その部分を怠ってしまうと、「治療をしても治らない」という事態に陥ってしまうわけです。
編集部
患者さん側の要因も何かあるのでしょうか?
辻先生
患者さんのセルフケアが不十分なことも治療が長引いたり、治療をしても治らなかったりする要因となります。とくに、歯周外科治療に関しては、患者さんのセルフケアがある程度できていないと、治療を進めることができません。歯周病治療は、歯科医と患者さんの両方が協力しないと治療が成り立ちません。歯科医による適切な治療と、患者さんによる適切なセルフケアの両方がそろって、初めて効果的な治療が可能になります。
編集部
以上のようなトラブルを回避するために、患者さんはどのような対策を行うとよいでしょうか?
辻先生
まずは、治療前にきちんと検査をしてくれる歯科医院を選ぶことが重要です。歯周病治療では歯科医の技術や使用する器具などももちろん重要ですが、それ以前に原因をきちんと洗い出せないと適切な治療は行えません。くわえて、治療前後で口腔内の写真などの記録をきちんと残していることもポイントとなります。写真や動画といった記録が残っていれば、その治療が本当に必要だったのかが判断できますし、そのような記録がきちんと出せる歯科医は的確な治療を行っている可能性が高いといえます。
配信: Medical DOC