「盗撮ではなく芸術だ」「尻には触っていない」 複数の性犯罪に問われた元歯医師の"あきれる"言い分

「盗撮ではなく芸術だ」「尻には触っていない」 複数の性犯罪に問われた元歯医師の"あきれる"言い分

少女のスカートの中を撮影した画像について、「芸術だ」と反論する。目撃者もいる痴漢事件で「触っていない」と突っぱねる。

元歯科医師の男性が罪に問われた刑事裁判で、弁護側は徹底的に無罪を主張し、有罪を立証しようとする検察側と全面バトルに発展した。

結局、男性は有罪判決を受けることになるが、最後まで反省の弁は口にしなかった。事件の発覚から判決まで追った。(ジャーナリスト・竹輪次郎)

●脱ぎ捨てられた「スニーカー」

2022年9月のある日の正午過ぎ、会社員の足立さん(仮名・60代)は、東京・渋谷の商業施設のエスカレータ近くであやしい動きをする男を見つけた。

背が高くやせ型で、メガネをかけており、周囲をキョロキョロとうかがうなど、落ち着かない様子。過去に捕まえたことがある盗撮犯と似た動きだった。

離れたところから観察していると、この”メガネ男”は商業施設のエスカレーターを上ったと思ったら、また下りるという挙動を繰り返した。しかも、そのたびに必ず若い女性のすぐ後ろに立つのだ。

何度か往復するうちに、男は若い会社員風の女性の後ろについた。足立さんも一緒にエスカレーターに乗って様子をうかがっていると、メガネ男は女性の尻に手をつけた。

足立さんはのちに裁判でこう証言している。「ちょんちょんと触る感じで何度も確認したが痴漢をしていた」。女性も警察に対して「手のひらで尻を触られた。許せない行為」と供述している。

エスカレーターを上がったところで、足立さんは男に声をかけた。「あなた痴漢していましたよね?」。

すると、男はものすごい形相で逃げだした。それに気づいた女性は男を捕まえようとそのカバンを掴んだが、振り切られてしまい、転倒してしまう。男はあっという間に渋谷の雑踏に消えた。

だが、男は現場に「証拠」を残していた。逃げる際に左足のスニーカーが脱げてしまっていたのだ。足立さんは脱げたスニーカーの写真におさめている。

そのスニーカーを持って、足立さんは被害にあった20代女性と共に交番に向かい、女性は被害届を提出した。話は一旦ここで終わる。

●スニーカーの「持ち主」が判明した

事件が急展開を見せたのは、およそ4カ月後の2023年1月。足立さんのもとに渋谷署から電話が入った。靴の持ち主=メガネ男が判明したというのだ。スニーカーに残ったDNAから特定されたという。

男は渋谷の痴漢事件から5日後に別の事件も起こしていた。大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)で痴漢と盗撮をしたとして、2つの件で起訴されていた。いずれも否認しているため、渋谷の事件について法廷で証言するよう、足立さんは求められた。

3つの事件の公判は、大阪地裁でまとめておこなわれることになった。

足立さんから情報提供を受けて、筆者は2023年10月に開かれた裁判を傍聴する。現場にスニーカーを忘れた男は、一見して、事件を起こすようには思えない、真面目そうな雰囲気だ。

彼の隣には弁護士3人が並んでいた。通常、迷惑防止条例違反のような法定刑が軽い裁判では、被告人が全面的に罪を認めて終わるケースがほとんど。しかし今回、メガネ男は自ら選んだ「私選弁護士」をつけて、全面的に無罪を主張していた。

弁護人はみな東京の弁護士。私選で3人もつければ、相当な金額になるだろう。しかも、裁判のたびに大阪までやって来るわけで、出張費もかさむ。そんな高額の費用を払えるのだろうかと余計な心配をしてしまう。

しかし、男の素性を調べていくと、そんな気持ちも吹き飛んだ。報道によると、男は10年以上前、少女をナイフで脅かして、人のいない場所に連れ込んで強制わいせつした疑いで逮捕されていた。

当時、男の職業は「歯科医師」だったが、やがて免許をはく奪された。

その後も、図書館の駐輪場にいた小学生女児の尻をなでたとして、強制わいせつの疑いで逮捕されている。しかもこのとき、別の強制わいせつ事件で起訴されている最中だったという。

そして2022年、渋谷とUSJで3つの事件が発生した。

男は、渋谷で20代の女性に対する痴漢行為(東京都迷惑防止条例違反の罪)とUSJの施設内で10代少女に対する痴漢行為、高校生くらいの女性に対する盗撮(ともに大阪府迷惑防止条例違反の罪)で起訴された。

いわゆる性犯罪の常習犯で、目撃者もいる。裁判はすぐに決着がつくと思われた。

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