●女性が振り向かないので「痴漢」でない?
だが、そう簡単にはいかなかった。裁判では、渋谷で起きた痴漢事件について、男はエスカレーターで同じ場所を何度も往復しながら女性の後ろにいたことは認めた。だが、痴漢については認めなかった。
弁護人:なぜ女性の近くにいったのか?
男:好みの女性を探して、その後ろに立っていた。違和感なく女性に近づける手段としてエスカレーターを選んだ。
弁護人:ただ触ることはしていない?
男:前科があるので触ったらどういうことになるかわかっている。女性には触れていない。
弁護人:目撃者に腕をつかまれて痴漢したことを指摘されたが。
男:会話をしたわけではないが、ヤバいことにからまれたという認識だった。自分は触っていないが、警察にいけば勾留されるという頭があったので逃げる選択をした。
弁護人:女性たちの後ろにいて、彼女たちは後ろを振り向くなどしていたか?
男:していない。
弁護側は、目撃者がいることから、女性の後ろに立っていたことは認めざるを得ない。そこで、女性の後ろにいただけという主張に徹した。また、女性が後ろを振り向かなかったことをとって、痴漢をしていないことの根拠の一つとした。
●写真は「芸術だ」と言い放った
被害を受けた側の気持ちからすると、恐怖心から振り向くことすらできないということもあるのではないか。弁護側はわかったうえでやっていると思うのだが、被害者からすると不快なやりとりだろう。次は検察官からの質問。
検察官:触っていないということは、触ったと言っている目撃者はウソを言っているのか?
男:状況は誤解を生むようなもの、目撃者は痴漢を捕まえようという正義感から勘違いをしているのだと思う。
検察官:触ったら犯罪だということは知っていた?
男:はい。だから絶対に触らないように注意していた。
検察官:あなたには前科があるが、女性に触りたいという気持ちはあるのか?
男:心のどこかにあったかも知れない。でも前科があるので触らないように注意していた。
検察官:触りたいという欲望は消えていない?
男:触りたいというのは男として普通にあると思う。
被害者も目撃者もいる中で、男は「絶対に触っていない」と断言する。そこに戸惑いや羞恥心は見られない。えん罪を悲痛に訴えるという姿ではなく、淡々している感じだった。
次にUSJで起きた盗撮事件。男は若い女性たちが集まるスペースで、地べたに座る女性をスマートフォンで撮影した。
女子高生くらいの女性のスカートから下着が見えているが、下着のアップという写真ではなく、風景も写っている。男はこれを「芸術だ」と主張した。
弁護人:女性が床に座っているのは気が付いていながら、あえて写真を撮ろうと思った理由は?
男:USJならではの風景と、なんとなくきれいだなと思って撮った。背景と女性の組み合わせが良いと思った。
弁護人:写真はズームして撮影してあるが、なぜか?
男:女性と背景の組み合わせが良いと思ったので、周囲の人が写らないようにタテ画面でズームした。
弁護人:女性の下着が写っていることは気が付いたか?
男:警察署で刑事に撮った写真を見せられたときに初めて気が付いた。下着が写っているとわかれば撮らなかった。
配信: 弁護士ドットコム