【多羅富來和紙、千伊と月】 ここにしかない紙を作る! 使う人に寄り添った伝統工芸技術を守るひとびと 【愛媛/四国中央市】

紙の町のルーツを守りたい24歳の手漉き和紙職人

自然豊かな新宮町の里山で手漉き和紙の工房を構える大西さん。

そんな彼が手漉き和紙職人を目指したのは大学3年生の時だそう。

それまでも書道を通して、手漉き和紙の良さをたびたび実感しており、高校では、書道部に入部し、書道パフォーマンス甲子園にも出場しました。

その後、インターンシップで地元の手漉き和紙の工房を訪れたことがきっかけとなり、手漉き和紙職人の抱える問題や後継者のいない状況を目の当たりにします。

大西さん「紙の町なのに、手漉き和紙の技術が途絶えてしまうのは、耐え難い。 四国中央市のルーツを守りたい想いもあり、産業として生業にしていくことを決めました。」

学業の傍ら修行を開始し2022年に独立。

工房である多羅富來和紙を構えました。

そこから様々なイベントにも参加しながら手漉き和紙の魅力を多くの人に伝えています。

――手漉き和紙だけでなく、紙の原料であるミツマタやトロロアオイもご自身の手で育てていることを聞きました。 紙を作るだけでなく原料作りもされているのですか?

大西さん「工房を構えた時から、できるだけ地元の原料を使いながら手漉き和紙を作りたいと思っていました。 四国中央市では昔から紙の原料が自生していたこともあり、そんな環境も含めて残していきたいと思っています。」

時間も手間もかかる手漉き和紙。

四国中央市のアイデンティティでもあり大切なルーツの一つです。

大西さん曰く、手漉き和紙は、用途や使い心地に合わせて、その人の望む紙を作ることができるのだと教えてくれました。

繊維が絡みあって出てくる「線」の表情や、筆のくいつきは、手漉き和紙ならでは良さです。

原料によってもできる紙が変わってくるそうで、光沢があり滑らかな手触りが特徴的なミツマタ、美しい光沢に加え強い耐久性も兼ね備えたガンピ。

用途にあわせて原料を調整しながらここにしかない手漉き和紙を研究しています。

きちんと作れば、1000年持つと言われている手漉き和紙。

培われてきた技術を守りながら、新しい紙の可能性を探ることで四国中央市の手漉きの伝統をつなげていく姿に感動しました。

全国に22人の手漉き和紙用具職人とは? 職人ユニット『千伊と月』結成!

手漉き和紙は、すき簀(す)・桁(けた)などの用具がなければ漉けません。

またその用具も、ひごや糸、木材、金具などの材料がなければ作れません。

手漉き和紙用具や、その材料を製作している職人は現在全国に22人です。

その中で、今回取材した簀編み職人は全国で8人、ひご職人は6人しかいません。

繊細で細やかな美しさが魅力的なすき簀を四国中央市で製作している簀編職人の塩田未来さんと、そのすき簀を作るための材料である竹ひごやかやひごを調達し製作している石川宏味さんにお話を聞くことができました。

きめ細かいすき簀は伝統技術の結晶! すき簀は桁に挟んで使用します。

石川さん「まず、すき簀作りに欠かせないのがかやひごと竹ひごです。 かやひごは、すすきから。 竹ひごは竹から作ります。」

道端や山にあるすすきがかやひごになるそう!

――どちらもよく知っている植物ですね! 2種類の材料からすき簀は作られているようですが、何か違いはあるのでしょうか?

石川さん「かやひごのすき簀は、手漉き和紙に表情がでるので、味わいのある紙を作ることができます。 竹ひごのすき簀は、均一で美しい和紙を作ることができます。 それぞれ作りたい紙によってすき簀の素材や太さ細さも変わってきます。」

左がかやひごのすき簀で作った紙(少し線の表情があり味わい深い)右が竹ひごのすき簀で作った紙(均一で滑らかな仕上がり)

紙の用途にあわせて、竹ひごやかやひごを使い分け、太さも選定しているそうです。

すき簀の製作はひごや編み糸などの材料を調達するところから始まります。

ひごの製作は、すすきや竹を採取するところからです。

すき簀の材料も自然の産物ゆえに、出来上がるまで、かなりの時間がかかるそうです。

すすきは採取後、不良なものや曲がっているものは省き、同じ大きさごとに選別します。

かやひごとして使えるように使う部分を厳選しながら、すすきよりも細い竹ひごで、すすきとすすきを継いで必要な長さにしていきます。

竹ひごは竹を採るところから始まり、必要な工程を重ねます。

その工程の中で、ひご抜き穴を製作し、その穴へ1本1本通して必要な径にしていくことは、力がいる上に、何度も調節していくので、とても大変だそう。

和紙の用途によって、径が変わりますが、髪の毛のように細い竹ひごもありました。

この工程、一つ一つを職人さんが丁寧に目視して手作業で行っています。

しかし現在、材料を調達する場所や、製作する職人が少なくなってきているそうです。

石川さんはこの技術が途絶えてしまわないように、受け継ぎ、記録の作成等も行っています。

そして、それらの材料がそろうと次は、編む簀編み職人の出番です。

素早い手つきで糸を転がして、カランコロンとコマの音が鳴り響く様子は、ずっと見ていられるほど心地いい光景でした。

――すき簀を編むのは、すごく繊細な作業だと思うのですが、いつも何を考えながら作業されているのですか?

塩田さん「心地よく紙が漉けるように、力の強弱やコマの重さを調整しながら表面は平滑に、寸法は均等になるよう気をつけて編んでいます。 でも、感情的には『無』でやっています。」

簀編みの様子を見せていただくと、塩田さんの言っていたことがよくわかりました。

全集中で研ぎ澄まさないとできないような作業の数々。

材料も自然の素材を使用しているので、大きさや長さを確認しながら、製作しなければいけません。

どこか狂ってしまうと巻き戻しができないような緻密さに圧倒されました。

そんな貴重な材料を使用して作られたすき簀は、魂がこもっているかのような暖かみを感じます。

まるで、お2人のユニット名でもある「千伊と月(ちいとつき)」のよう。

千伊と月の「千」はたくさんのヒトやモノを調和をとりながらまとめる、「伊」は伊予の伊でもあり、誠実、信頼できるという意味、「月」には、裏方でありながら繊細に美しく輝く用具づくりの技術を守り、表方である紙漉きさんに寄り添い支える存在でありたい。 という多くの想いが込められています。

また、塩田さんの飼っている可愛らしい猫ちゃんのちいちゃんとつきちゃんからも由来しているそうです。

使う人に寄り添った優しく温かい、そして未来をつないでいくお2人らしいユニット名だと感じました。

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