どうして一点集中したのか
吉田恵里香による脚本にどうト書きが書かれているかはわからないけれど、岡田の演技プランがどうして怒りの感情だけをアウトプットすることに一点集中したのかが気になる。
確かに、航一の長女である吉川のどか(尾崎真花)がどこの馬の骨かもわからない画家の恋人・吉川誠也(松澤匠)を婚約者として実家に連れてきた第24週第119回での航一は、えらく取り乱してそれまでの場面でもっともエモーショナルだった。
それだけならまぁまだ航一の感情の起伏として理解の範疇だが、たかだか一瞬の場面だとしても、あの顔芸の怒声は、正直なところ、星航一役のすべてをぶち壊していると思う。頑迷な性格から強権を振るうようになった桂場の暴走をよくぞとめてくれた!と、進言した航一に対して素直に拍手すべきなのか……。
怒声と怒号を込める岡田将生
いや、やっぱりここは審議である。この怒声問題を精査するためにはうってつけの演技をひとつ、岡田の過去作から引っ張りだしてみたいと思う。それはまさに『半沢直樹』と同じ日曜劇場ドラマ作品であり、出演俳優たちが『半沢直樹』テイストの顔芸的怒号をスタンダード化するきっかけともいえそうな『小さな巨人』(TBS、2017年)である。
長谷川博己演じる主人公の刑事・香坂真一郎が警察組織の隠蔽を暴こうとする同作では、香坂の部下である山田春彦(岡田将生)が、隠蔽に関わる内閣官房副長官の父・山田勲(高橋英樹)と対決する場面がクライマックスへの重要な場面として描かれる。
濡れ衣を着せられ、追われる身となった春彦が実家に潜入し、勲の罪を叱責する。半沢直樹顔負けの剣幕で、目元いっぱい力ませ、半ば硬直したかのような顔の下半分で怒りの言葉を浴びせる。
息子に背中を向けていた勲がふと振り返る。もう済んだのかい?という表情で「お前、こんなことがしたくて、警察官になったのか?」。さすが昭和の大スターの佇まい。びくともしない。赤子の手をひねり、たしなめ、相手の過剰な演技に対して冷静になれと諭すようにさえ見える。
演技は顔芸ではないぞ。これは高橋英樹から岡田将生へのアドバイスではなかったか。たとえ、感情が高ぶる場面でも、いたって冷静沈着にエモーションを抑制するんだよ、と。
配信: 女子SPA!