“がん”は日本人の国民病と言っても過言ではなく、厚生労働省によると生涯のうち2人に1人が発症すると言われています。その中でも罹患率が特に高い大腸がんの予防には、定期的に大腸カメラの検査を受け、原因のひとつであるポリープを切除することが重要です。しかし、検査のハードルが高く、一度も大腸カメラの検査をしたことがない人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、実際に大腸がんを発症し手術を経験した橋爪淳さんと消化器病学会専門医である石岡充彬先生に、大腸がんの予防と治療方法について対談していただきます。
インタビュー:
橋爪淳(俳優)
1982年 東宝50周年記念映画『海峡』でスクリーンデビュー。1983年 美空ひばり新宿コマ20年連続出演舞台『ひばりミュージカル・水仙の詩』の相手役新人オーディションで抜擢される。1987年『若大将天下ご免!』(EX)で、連続ドラマ初出演。1990年『大江戸捜査網』(TX)でも主演を務め、時代劇には欠かせない存在となる。1994年公開『ゴジラVSスペースゴジラ』で、映画初出演。2000年から参加した舞台『細雪』では、2017年に渡り、雪子の縁談相手役・御牧を長年演じた。近年では、俳優としての活動にとどまらず、「まなびのスペーススタジオファジオス『非・演技塾』」の講師を務めるなど、後進の育成にも積極的に取り組んでいる。
監修医師:
石岡充彬(消化器病学会専門医)
2011年 国立秋田大学医学部医学科卒業。卒業後は秋田大学医学部附属病院の消化器神経内科学講座医員として研鑽を積む。2018年 がん研有明病院消化管内科。2021年 同病院 健診センター・下部消化器内科兼任副医長に就任。2022年より品川胃腸肛門内視鏡クリニックの院長を務める。2024年「日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック」を開設。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。
石岡先生
現在の体調はいかがですか?
橋爪さん
大腸がんで手術して約半年がたちました。今は飲み薬の抗がん剤で治療を続けているのですが、副作用もなく体調は良いと思います。
石岡先生
橋爪さんは幸運にも副作用がないのですね。大腸がんは日本人が罹患する全てのがんの中で最も多いがんだと言われています。大腸がんを経験される前はがんに対してどのようなイメージをお持ちでしたか?
橋爪さん
「がん=死」というイメージがありました。
石岡先生
日本では生涯の間で2人に1人はがんになる時代です。その代わりに医療も進歩しているので、がんになっても10年、20年と元気に過ごされる人がたくさんいらっしゃいます。「がんになったら死ぬ」というような時代からは変化しているかもしれませんね。
橋爪さん
ほんとにそうですね。
石岡先生
最初に大腸がんの症状を自覚した時の経緯について教えてください。
橋爪さん
最初に症状を自覚したのは血便です。
石岡先生
ほかにはどうですか?
橋爪さん
食事するとすぐにトイレに行きたくなりました。ちょうど大河ドラマの撮影の時期で、一度衣装を着てしまうとなかなか脱げないため、ずっとおしめをしていました。
石岡先生
血便を初めて自覚されてから病院を受診するまでにどのぐらいの期間がありましたか?
橋爪さん
1年です。自分の体調を心配してくれる人が周りにたくさんいたので、さすがに受診しました。
石岡先生
周囲からの後押しもあって受診を決意したということですね。
橋爪さん
私の場合は血便で初めて症状を自覚したのですが、大腸がんの初期症状はどのようなものがありますか?
石岡先生
大腸がんは多くの場合、最初に大腸ポリープができ、これが育って早期大腸がん、進行大腸がんと進展していくのですが、早期の大腸がんの段階ではほとんど症状がありません。症状が出たときには多くの場合が進行がんの状態です。
橋爪さん
そうなのですね。進行がんでは、どのような症状がありますか?
石岡先生
下痢や便秘などの便通異常や血便、貧血、体重減少などがあります。
橋爪さん
私も体重が減りました。大腸がんの原因について教えてください。
石岡先生
大腸がんは遺伝的な要因や食生活、加齢に伴う変化など、それらが複雑に絡み合って発症します。大腸がんの約30%には遺伝的な背景が関わっていると考えられています。
橋爪さん
結構多いですね。
石岡先生
橋爪さんのご家族でがんになった方はいらっしゃいますか?
橋爪さん
母も大腸がんを発症して手術しました。
石岡先生
遺伝的な要素もあったかもしれませんね。
橋爪さん
そうかもしれません。大腸ポリープはできるだけ切除したほうが良いのでしょうか?
石岡先生
はい。大腸がんの前段階である大腸ポリープを定期的に切除することは、大腸がんの予防につながります。皆さんに知っていただきたいポイントですね。
橋爪さん
ポリープを切除することで大腸がんの予防につながるにもかかわらず、大腸がんになる人が多いということは検査をしない人も多いということですか?
石岡先生
そのとおりです。大腸がんに対する正しい知識が広く伝わり検査が普及すれば、大腸がんになる人も減っていくと思います。
橋爪さん
大腸がんになりやすい年齢は何歳くらいですか?
石岡先生
大腸がんは年を重ねるにつれてリスクが高くなりますが、一般には40代からリスクが上昇します。男性に多いがんである肺がんや前立腺がんは60~70代が好発年齢であることを考えると、大腸がんは若いうちから注意が必要と言えます。
橋爪さん
ポリープの状態では症状がないことを考えると、若い頃から検査したほうが良いですね。
石岡先生
そうですね。私も32歳で初めて大腸の検査を受けてポリープが2個見つかりました。放置するとがんになるタイプのポリープだったので30代でもその可能性があることは知っておいてほしいと思います。橋爪さんは大腸がんと診断された時、どのぐらい進行していると言われましたか?
橋爪さん
ステージ3だと言われました。最初に大腸カメラをした際に腸の中を覆い尽くすような腫瘍があり、それに邪魔されて内視鏡が奥に入っていかないほどでした。
石岡先生
進行状況を聞いてどのように感じましたか?
橋爪さん
あまり驚かず「ああ、やっぱりな」という感じでしたね。
石岡先生
1年間血便を自覚されていたので、頭の片隅では覚悟していたのかもしれませんね。
橋爪さん
そうかもしれません。私はリンパ節にもがん細胞があったのですが、抗がん剤を続けていくことで完治する可能性はありますか?
石岡先生
大腸がんのステージは病巣の深さと転移の有無によって決まっていて、完治を目指せるのは基本的にステージ3までです。私たち内視鏡医が対応するのは、基本的にがんが粘膜のみにとどまるステージ0とステージ1のごく一部までです。そこから病巣が深くなっていくとステージ1、ステージ2と進行していき、外科的な手術が必要となります。
橋爪さん
そうなのですね。ステージ3はどのような状態ですか?
石岡先生
リンパ節への転移が見つかるとステージ3という診断になります。さらに遠隔転移と言って肝臓や肺、脳などの別の臓器へ転移がみられるとステージ4という段階です。
橋爪さん
私の場合はリンパ節も含めて手術をしたのですが、また再発する可能性もあるのでしょうか?
石岡先生
手術した段階で目に見えないがん細胞が体に散らばっていることで、転移再発する可能性はあります。そのリスクはステージ1で約5%、ステージ2が約15%、ステージ3で約30%です。
橋爪さん
私の場合は、その30%を抗がん剤で治療しているということですね。
石岡先生
そのとおりです。大腸がんは同じステージのほかのがんに比べると手術で腫瘍を取り切れる割合が高く、抗がん剤も進歩しているので予後も良好ながんだと言われています。
橋爪さん
その話を聞けて少しほっとしました。
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配信: Medical DOC
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