悪性症候群の前兆や初期症状について
悪性症候群の前兆として発熱や全身の筋肉痛、倦怠感が挙げられます。
初期症状は、38度以上の発熱、四肢や頸部の筋強剛、頻脈、意識障害などです。
症状が急速に進行する経過も悪性症候群の特徴となります。
また、血液検査ではCK値(クレアチニンキナーゼ:筋肉の細胞が破壊されているかどうか分かる値)が上昇する可能性もあります。
これらの症状は抗精神病薬の投与開始後、中止後、あるいは薬の量の変更後数日から数週間以内に発症する可能性が高いです。
24 時間以内の発症が16%、1週間以内の発症が66%、30日以内の発症が96%と大半を占めています。
(参考:厚生労働省/重篤副作用疾患別対応マニュアル 悪性症候群)
原因となる抗精神病薬を中止することで、合併症のない場合は平均7〜10日で症状は改善する傾向です。
一方、症状が長引くケースもありますが、死亡率は最近では10%以下に減少しています。
(参考:薬物と神経筋障害:診断と治療の進歩 Ⅲ.薬物副作用による神経・筋障害 4.悪性症候群/日本内科学会雑誌/第96巻/第8号)
悪性症候群の検査・診断
悪性症候群の検査は実際の状況と薬物の使用歴に基づいておこなわれます。
悪性症候群に似ている症状としてセロトニン症候群や熱中症、神経内科疾患があるため、鑑別のために必要な検査をおこないます。
悪性症候群を引き起こす薬物の有無を調べる
2021年3月に集計された、悪性症候群を引き起こす可能性が高い薬物は以下の通りです。
アリピプラゾール
リスペリドン
オランザピン
ブレクスピプラゾール
ハロペリドール
クエチアピンフマル酸塩
フルニトラゼパム
アセナピンマレイン酸塩
ブロナンセリン
ビペリデン塩酸塩
スルピリド
バルプロ酸ナトリウム
これらの薬物の関与がある場合、悪性症候群を疑います。
血液検査
悪性症候群では血液検査でCK値の上昇や白血球数、ミオグロビン、プロラクチンの増加が確認できます。
CK値の上昇:筋肉の破壊によって放出される酵素がCKであり、悪性症候群による筋強剛や筋崩壊(横紋筋融解:筋肉の細胞が壊れてしまう状況)によって上昇します。
白血球数の増加:炎症やストレスの反応により、白血球数が増加します。白血球数は急性の重篤な状況も反映する数値です。
電解質の異常:筋崩壊が進行すると、筋内のカリウムが血液内に漏れ出てしまい、不整脈などのリスクがある高カリウム血症を引き起こします。また、脱水や過剰な発汗により体や脳のむくみ、けいれんなどが発生する低ナトリウム血症の有無も確認します。
ミオグロビン量の増加:横紋筋融解が進行すると、筋肉からミオグロビン(筋を作るタンパク質)が血液に漏れ出る仕組みです。本来血液にないミオグロビンが増加すると、血液を処理する腎臓に負担がかかり腎不全のリスクが高まります。
プロラクチンの増加:プロラクチン(乳腺の発達と乳汁分泌に関わるホルモン)はドーパミンによって抑制をうけています。悪性症候群でドーパミンが減少するとプロラクチンの制御ができません。それによってプロラクチンが増加し、月経異常や性機能異常が発生します。
Levensonらの悪性症候群診断基準
Levensonらの悪性症候群診断基準は、大症状の 3 項目、または大症状の 2 項目+小症状の 4 項目を満たせば悪性症候群を確定診断する基準です。
大症状
発熱
筋強剛
血清 CK の上昇
小症状
頻脈
血圧の異常
頻呼吸
意識変容
発汗過多
白血球増多
画像検査
悪性症候群は意識障害を伴うことがあるため、脳梗塞や脳出血などの神経学的疾患の除外を目的に画像診断がおこなわれることがあります。
悪性症候群の直接的な診断には必要ありません。
配信: Medical DOC