●「そんな馬鹿な、と笑っていたら、その滅茶苦茶な主張を裁判所が認めてしまった」
道警側が控訴審で提出した証拠の1つに、ヤジを飛ばす大杉さんが与党関係者から腕を押される場面を記録した動画がある。当時の道警は、この腕を押す行為が大きなトラブルに発展するのを回避するため、警察官職務執行法4条に基づいて大杉さんを「避難」させたと主張していたのだ。
やはり最高裁決定後の会見で同じ話題に言及した桃井さんは、呆れ声で次のように指摘する。
「暴行される側が『言論の自由』を奪われる滅茶苦茶なことになっている。これ、『気に入らない奴がいたら暴行しろ、そうすれば警察がそいつを排除してくれるぞ』っていうことになりますよ」
当時の驚きを振り返り、「そんな馬鹿な、と笑っていたら、その滅茶苦茶な主張を裁判所が認めてしまった」と桃井さん。先の小野寺弁護士も「裁判所が警察官の行為にお墨つきを与えた」と唇を噛む。小さからぬ「モヤモヤ」を孕む高裁判決を書いた大竹優子裁判長は、この言い渡しの直後、札幌家裁の所長に異動した。
●大杉さんの実感では「3分の2ぐらいは勝っている」
とはいえ、ヤジが原則として、言論・表現の自由で認められるという判断の大枠は、1審判決から揺らいでいない。この点を高く評価するのは、敗けたはずの大杉さんだ。
「争いを通じてずっと言ってきたのは『ヤジは表現の自由で認められていて、不当に排除できない。選挙妨害にもあたらない』という主張。裁判ではこれが全体として認められたので、ぼくの部分で敗けたとしてもそれを『別のこと』として切り離す必要はないかなと」
一部逆転敗訴には納得しかねるが、訴えを起こす意義はあった――。大杉さんの実感では「3分の2ぐらいは勝っている」という。ここに至るまで、排除事件が起きてから5年以上の時間を費やさなくてはならなかった。
1審原告の2人は、事件の直後からさまざまな方法で警察の責任を追及してきた。排除にあたった警察官らを特別公務員暴行陵虐などの罪に問う刑事告訴や、排除行為を刑事事件として扱うよう裁判所に求める付審判請求、先の告訴事件が奏功しなかった結果へ異議を唱える検察審査会への審査申し立て。
だが、これらはことごとく退けられ、唯一残された手段こそが国賠訴訟の提起だった。
配信: 弁護士ドットコム