「ヤングケアラーをケアする環境づくりは絶対に必要」映画『若き見知らぬ者たち』磯村勇斗インタビュー

「ヤングケアラーをケアする環境づくりは絶対に必要」映画『若き見知らぬ者たち』磯村勇斗インタビュー

ドラマに映画、CMと、姿を見ない日はないほど話題作への出演が続く俳優・磯村勇斗さん。そんな磯村さん主演で、2024年秋に公開される映画が『若き見知らぬ者たち』です。「佐々木、イン、マイマイン」が評判を集めた内山拓也監督が日本、フランス、韓国、香港合作で手がけた商業長編デビュー作であることも注目なのですが、何が話題って……磯村さん演じる主人公の彩人(あやと)、過酷すぎる運命に抗いながらも、映画の中盤では亡くなってしまうんです!


 


いったいどういうこと? そして、これほど人気を集める中、これほどにハードな作品に出演を決めたのはなぜ? 聞きたいことてんこ盛りで磯村勇斗さんへインタビューを敢行! 聞き手は磯村さんと以前から取材を通じて親交のある、映画ライターのよしひろまさみちさんです。

シーンごとに撮り終えたら、そのときの感情をきれいに畳んで置いて帰っちゃうんです

――役作りのためのワークショップやリサーチはどのように行ったんですか?


磯村勇斗さん(以下 磯村) 役者それぞれ、演じた役柄に応じて知っておかないといけないことが違ったので、どういった準備が必要かを監督と話し合いました。それで、どういう取材やリサーチをするかを決めていったんです。僕が演じた彩人は、難病を患った母を一人でケアするヤングケアラーで、昼間は工事現場で作業して、夜は亡くなった父親が所有していたカラオケバーを一人で切り盛りしています。なので、ヤングケアラーについてのリサーチから始めました。母親役の霧島れいかさんとの共演シーンが多いので、霧島さんとは病状の重さやどういう動きをするとかいうところを事前に話し合って準備しましたね。


――撮影前に話し合いの時間がとれたんですね。


磯村 あまり長い時間ではないんですが、ありました。たとえば、シーンひとつとっても、「この前にはこういうことがあって、この場にいる」といったことを監督を中心にすり合わせて、すぐに本番といった具合でした。


――順撮りではなかった?


磯村 そうなんです。とくに僕が出演しているシーンは……


――あ、それ以上はネタバレになるので!


磯村 ではバレない程度に。一番大きな動きがあるシーンでは、若い輩風の人たちと警察官が出てくるんですが、あれは撮影スケジュールの後半でした。


――あのシーンが最初だったら無理ですよね。


磯村 それはきついですね(笑)。


――あのシーンに限らず、「もう許してやって……」って何度思ったか。とくに磯村さんが演じた彩人に関しては、観ているこっちがメンタルやられちゃう。磯村さん自身はやられませんでした?


磯村 それが……僕はいつも、やられないタイプなんですよ。シーンごとに撮り終えたら、そのときの感情をきれいに畳んで置いて帰っちゃう、っていう感じで。


――引っ張らないんだ!


磯村 はい。不思議なんですけど、以前からそうなんですよね。もちろん演じている間は、その役のことでいっぱいですし、この作品なら彩人として生きているんですけど、ひとたび終わるとスッと戻って、置いてっちゃうんです。


――「はい。お世話になりました」みたいな感じで抜け殻を置いていく感じ?


磯村 そうですね。「このたびはどうもありがとうございました」的な(笑)。だから、こういうふうに撮影が終わって、作品が完成したあとの取材の場では、それをちょっとだけ戻す作業があるんですよ。


――たとえば??


磯村 取材前日にイメージトレーニングしたり、取材現場で監督と話しているうちに現場のことを思い出していったり。そうやって今日も彩人を戻しているんで、なんでも聞いてください(笑)。

©2024 The Young Strangers Film Partners

監督とは多分、波長があったんだと思っています

――ありがとうございます。この作品、時系列が工夫されていたり、幻想的な演出があったり、とすごく凝った構成になっていますよね。脚本上で決まってたこと? それとも編集でこうなってます?


磯村 脚本段階で決まってました。シーンによっては、こういう流れになる、ということが脚本上に書かれていることもありました。本編を僕も観ていますが、全て脚本の進行どおりなんですよ。これはもう監督の計算ですよね。しかも計算通り。


――すごい。よく思いついたって思いますよ。特に彩人が銃で撃たれるシーン、あれなんて、つかみはOK、という感じで一気に引き込まれました。ただ、どうやって撮影していたか、分からなかったけど。


磯村 僕が自転車をこいでいるところをアップで撮ってて、途中でこめかみに拳銃がきて撃たれるシーンですよね、詳細は控えますけど実はすごく泥臭い方法で撮ってるんですよ。自転車、こいでませんから。


――え? 気になる(笑)。シンプルだけど、めちゃくちゃ効果的なシーンですよね。しかも、あのオープニングのおかげで、「この先、めちゃくちゃ不穏になりますよ」っていう啓示になってます。内山監督、お若くてアイデアマン。何か「これを観ておいて」的な情報共有はあったんですか?


磯村 監督が持っている世界観の共有みたいなことが全くなかったんですよ。想像するに、内山監督はおそらくこういう時代のこういう作品が好きなんだろうな、っていうのは想像できるんですが、役作りや撮影中にそういった話は一切出てこなかった。


――えー、リファレンスほしいじゃないですか。


磯村 ほしかったですねー。でも、普段の会話の中で、監督のことを理解できたところがあったので、具体的なリファレンスがあるよりは混乱しなかったかも。


――というと?


磯村 多分波長があったんですよ。クランクイン前にプライベートで一緒に過ごす時間を持つことができたんですけど、そのときに監督がこの作品で狙っていることが分かったんですよね。きっとそれは波長がかみあったからだと思っています。

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あぁ、上っ面だけじゃ人間関係も壊れるってひしひし感じました

――ヤングケアラー自身のケア問題は、喫緊の社会問題ですよね。しかも救われない若者がものすごくたくさんいるのに、表に出る術を持たないし、知らないし。いいタイミングでこの作品が世に出ますし、これが世に出たら、彩人を演じた磯村さんが彼らの理解者の筆頭株になれるんじゃないですか?


磯村 そこはやっぱりやっていきたいですよね。映画にしたからこそ、絶対に届いてほしい。彩人がヤングケアラーとして背負ったものを表現した僕にしかできないことがあるように思えます。といっても、当事者ではないので、どこまでどう力になれるのか分からないんですが、自分でできる限りの発信をしたいです。


――リサーチしてて、つらかったでしょう。


磯村 彼らを取り巻く環境の実態や、行政が動くべきところが機能していないこともあったりとか。ヤングケアラー自身もそうですが、彼らをケアする環境づくりは絶対に必要だと思います。そのことを知っていらっしゃる方はもちろんたくさんいらっしゃるんですが、知らない人が圧倒的に多い今、この映画をきっかけにちょっとでも広がっていけば、世の中が変わるきっかけになるんじゃないかって思うんです。


――本当に立派よ……。その通り。本来政治や行政が動かないといけないことが機能してないのに、行き過ぎた個人責任主義で、なぜかヤングケアラーは自己責任だと思いこんじゃってるんだから。彩人はその最たる例ですよね。


磯村 本当にそうですよね。岸井ゆきのさんが演じた、彩人の恋人・日向は看護師なので、彩人が抱えている悩みを理解できているんですよ。支え合える関係があるから、彩人はなんとか生きていられる。


――逆に彼女が全く違う仕事していて、なんとなく知ってる風な感じだったとしたら関係が全く違いますよね。たとえば、日向が「お母さんのためには〜〜したほうがいい」とか指摘するような子だったら……。


磯村 多分、彩人はキレるでしょうね。


――さすが。介護の現場って、知ってる人が口を出すのと、知ったかぶりして口を出すのとでは全く受け止め側の感覚が違いますもん。


磯村 彩人を研究していて、それはひしひし感じました。あぁ、上っ面だけじゃ人間関係も壊れるって。


――そうそう。それが一切なくて、支え合うだけの恋人って本当に理想的。だけど、そういったことに言及している映画やドラマってじつはこれまでなかったかも。


磯村 いい意見提示になると思っています。たとえば僕が肉親の介護する立場になったとしたら、彩人を演じた経験がすごく生きるはず。それはご覧いただく皆さんにもいい影響があると思っています。この作品でもリサーチで介護の現場にいきましたし、他の作品でも研修に行ったことがあるんですが、とにかく「何かを強制してはいけない」ってことなんですよね。それは患者さんはもちろん、ケアする人にも。あくまで人と人が触れ合っていることを忘れてはいけないし、人の触れ合いを大事にしないといけない、というのが介護の本質なんですよね。


――泣きそう……。


磯村 (笑)。なんでもそうですが、あれやれ、これやれ、とか指図することは、イコール強制なので。言葉で通じ合えないような病状だったとしても、絶対にイヤなはずなんですよ。だから、優しく接して、相手を尊重して声をかけあうというのは、すごく大事だし、人付き合いそのものの第一歩でもありますよね。

©2024 The Young Strangers Film Partners

役者にとって、経験とご縁ほど大事なものはないと思います

――ここ数年、磯村さんのご活躍を拝見していて思うんですが、今作の彩人をはじめ、日に当たらないところで息を潜めて生きている人たち、もしくはそこに寄り添う人の役が多いですよね。


磯村 おっと、たしかに。


――これ、意図的に選んでます?


磯村 ぜんぜん違うんですよ。今言われて気づきましたけど、ほんとタイミングですね。


――ご縁ですね。


磯村 そういうことだと思います。ご縁ってタイミングですし、双方引き合わせる運も働いていると思うんですが、それって自分がそこに向き合っていかないといけないことを、目に見えない大きな力によって示されている気がするんですよ。しかも、それを演じることによって、届くべき人のところに発信する役割を与えられてるのかな……って。ご縁のことを考えるといつも、それが僕の人生のひとつの役目なのかも、というふうに思うんです。ちょっとおおげさかもしれませんけどね。


――いや、そうなんじゃないですか? 映画にしかできないことって本当にありますし。


磯村 とくにこの映画はそうですよね。


――そうそう。こういうタイプのテーマをシリーズものでやろうとすると、どうしてもエンタメ寄りにウェットな展開になったりするから。


磯村 可能性ありますね。映画だったらエンタメにもなれるし、リアリティの追求もできるし、アート路線にもいける。


――そうそう。この作品はその点、エンタメ・リアル・アート全部盛りなんですよね。この映画が公開されたら、磯村さん、NスペとかEテレとかに呼ばれそう。


磯村 うわわ。滅相もない。でも、彩人を演じた僕として呼ばれるんだったら、このテーマを自分の言葉で話せるようにしないといけませんね。


――それがきたとしてもご縁ですもの。やっぱりご縁、そして経験は大事。


磯村 役者にとって、経験とご縁ほど大事なものはないと思いますよ。どちらも積み重ねるものですし、その積み重ねによって、俳優としての自分の観られ方が変わりますし、自分が選ぶ作品も変わってきます。自分でコントロールしようと思ってもなかなかできないことだけど、これほど大事なことはない、と思ってます。


映画『若き見知らぬ者たち』

磯村勇斗 岸井ゆきの 福山翔大 染谷将太

伊島空 長井短 東龍之介 松田航輝 尾上寛之 カトウシンスケ ファビオ・ハラダ 大鷹明良

滝藤賢一 / 豊原功補 霧島れいか

原案・脚本・監督:内山拓也

©2024 The Young Strangers Film Partners

10月11日(金) 新宿ピカデリーほか全国公開

©2024 The Young Strangers Film Partners

Photograph:KAORI IMAKIIRE

Interview & text:MASAMICHI YOSHIHIRO

styling: TOM KASAI

hair & make-up: TOMOKATSU SATO

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