●「知人らに知られることはない」と説明
検察官からは、事件当時の被告人の役割と、AV新法に関する認識についての質問がなされた。
女性らの最終的な採用決定権は被告人にあったが、「強要してはいけない」という認識があるくらいで、スカウトがパパ活アプリを用いていること以外は、具体的な方法もその問題性も認識していなかったと主張した。
被告人は、契約書等について、1名に対し一度でも交付すれば問題ない認識だったが、実際は出演する制作物ごとに契約を締結し、契約書等を交付する必要がある(AV新法4条)。
被告人なりの契約書は用意し、出演者に内容の確認はしてもらっていたものの、それを新法と照らし合わせて適正か確認することはなかった。
検察官「その契約書にはどのようなことが記載されていたのですか」 被告人「著作権は販売者に譲渡するとか、裁判をする場合はどことか」
検察官「どのような内容の撮影かの記載はありましたか(編注:記載がなければAV新法4条3項違反等)」 被告人「ありません」
検察官「この法律が女性にとって望まない出演を規制する法律であるということは」 被告人「そういう女性がいるのも知ってたし、できるのは当然なのかなと思います」
法律の趣旨を把握しながらも、やはり他人事のような反応を示す被告人。本件の発覚については、制作物が被害者の知人に見られたことを被告人に相談したことからであった。その点、被告人は「知人らに知られることはない」と説明していた。
しかし、AV新法5条の説明義務として「撮影された映像により出演者が特定される可能性があること(1項3号)」とある。まさに女性にとって望まない出演を避けるために定めた同法の規定に反する犯行態様だった。
●「法律を知らなかった」では済まされない
判決は懲役2年、罰金100万円、執行猶予3年(求刑懲役2年、罰金100万円)であった。
裁判長は判決の理由として、適切に契約内容を説明しなかったことは、契約を正しく締結させなかったのみならず、被害者女性から検討の機会を奪うものであり悪質と非難した。
また、被告人が法律の詳細を把握していなかった点は認めつつも、知らなかったでは済まされないとし、一連の出演交渉等における中心的な人物としての責任の重大さを挙げていた。
配信: 弁護士ドットコム